首都で新ビール醸造にチャレンジ

九州よりやや小さいぐらいの国内に100か所以上の醸造所があり、味も種類も豊富なことで有名なベルギービール。それでもさすがにブリュッセルで現在ビール製造を行っているのは、カンティヨンとセンヌという2業者しかない。ところが最近になって、首都3番目のビールを新たに造ろうという若手が現れたというから、これはなかなか興味深い話だ。7月26日付の『ル・ソワール』紙は、ユニークな着想に溢れた20代の「素人」2人によるチャレンジの現在について伝えている(Une bière bruxelloise lancée par des autodidactes. Le Soir, 2013.7.26, p.21.)。
元は経営企画エンジニアだったオリヴィエ・ドゥ・ブラウヴェレとセバスティアン・モルヴァンがビール造りを始めたのは、本当にゼロからの出発だった。図書や独習教材、さらにはユーチューブのビデオなどを手本に、まずはホップとスパイスの配合法について研究をしてみたというのだから驚いてしまう。しかし、モルヴァン氏がムーリス研究所で醸造化学を本格的に学び始めてからは、思いつきが急速に実現への道を辿り始めた。彼らにとっては、若さゆえの勇気や野心が何よりの原動力となっていた。
「ビア・プロジェクト」と名付けられた企画は、この6月には試作ビールの品評会実施にまでこぎつける。有機製法を謳い、瓶詰めされた4種のビール、アルファ(琥珀色)、ベータ(濃い琥珀色)、ガンマ(ルビー・ダーク)、デルタ(苦めの淡色)を何百人かが飲み、一番おいしいと思ったものに投票した。結果は42%の票を獲得したデルタビールの圧勝だったのだが、これはもっぱらアルファを支持したビール醸造の専門家たちの見解とは根本的に異なっていたという。ドゥ・ブラウヴェレ氏は「一般の人が(玄人の見立てとは違って)苦みのあるしっかりしたビールを好むことがわかったのが面白かったです」と愉快そうにコメントしている。
このプロジェクト、一見思いつきの域を出ないようではあるが、実は背景にいろいろな思いが込められている。「クラフト・ルネサンス」という考え方をベースに、街中や地域のつながりを大事にしてものづくりを進めたいという希望が、ブリュッセルという場を選んでビール醸造を展開することにつながった。さらに資金の捻出に関しても、ネットを駆使した「クラウドファンディング」を活用するなどの工夫をしている。このあたりはさすが、若者らしいフットワークの軽さを感じさせる。
今のところ醸造所はブリュッセル市内にはなく、東に50キロほど向かったハレン町の工場を間借りしてデルタビールを細々と作らせてもらっている(そして首都にあるいくつかのカフェで飲める)状態だが、次の大きな目標は、自前のブルワリーを市内のできれば運河地区あたりに持つことと設定されている。そのためには100万ユーロもの大金が必要で、自己資金や銀行融資に頼りつつも、15万ユーロほどはクラウドファンディングで確保したいとのこと。こうした資金調達は決して生易しいものではないだろうけれど、いつの日か地元の味、首都の名物ビールになることでプロジェクトが一定の地位を成すまでは、夢が終わることはないのではないか。