騒動を引き起こした「卵の生産過剰」

日本では「物価の優等生」などと呼ばれ、生産・消費共に比較的安定していると見られる卵だが、フランスでは最近かなりの混乱状態が生じているようだ。生卵を大量に廃棄して(壊して)デモンストレーションする農民たちがテレビでも話題となっている。8月14日付の『ル・モンド』紙は、この問題の底にある悩ましい事情について解説している(Les petits producteurs d’œufs accusent la grande distribution de les asphyxier. Le Monde, 2013.8.14, p.9.)
フランス全土の生産高(年間約130億個で欧州第1位)の48%を占めるほど鶏卵の生産が盛んなブルターニュ地方、コート−ダルモール県サンブリユー市やフィニステール県モルレー町の街中で、30名ほどの農民たちが数万個の卵をぶちまけ、自らの窮状について抗議した騒動は、そのイメージの過激さから一般にも相当知られるところとなった。「単に食品をムダにしているだけだ」、「慈善団体に寄付すれば良かったのに」といった批判も少なくなかったけれど、政府による卵の価格の下支えを求めた農民たちの思いは極めて切実なものであったようだ。
活動を展開する一人は、現在卵100個当たり4.30ユーロでの売り渡しを余儀なくされており、これは原価を2.70ユーロも下回っていると述べている。また他の農民は、「明日にも夜逃げしなくてはならない農家が出かねない状態だ」と憤りを露わにする。フランス家禽総同盟会長のクリスティアン・マリノフ氏は、フランス全体でみると5%ないし6%の生産過剰となっており、そのことが価格の低落につながっているのではないかと分析している。
これらの農家にとりわけ大きな影響を与えているのが、近年彼らが対応を余儀なくされた、新しいEU基準に適合させるための飼育舎拡大を目的とする設備投資。これに相当な資金をつぎ込んだにもかかわらず、スペインやイタリアでは同様の対応が充分になされておらず、その分フランスの卵は価格競争力を失った部分がある(と彼らは主張している)。支出は増え、一方で生産物の相場が低落するのでは踏んだり蹴ったりというわけであろう。
激しく、「生臭い」抗議活動の成果があってか、8月13日にはステファヌ・ル・フォル農相が現地に駆け付け、ブルターニュ地域圏地方長官であるパトリック・ストルゾダ氏も交え、農民との直接対話が行われた。しかし実際のところ、政府としても取ることのできるこれといった対策があるわけではない。何よりもまず、消費者レベルでは生産者と逆に、卵の値段が上がっているという事実がある。2012年2月の統計によれば、卵の消費者価格は前年同月比で2.33倍の値上がりを記録しているのだ。農民は盛んに緊急の財政的支援を政府に訴えるのだが、EUの規定により鶏卵農家に対する資金援助等はできないことになっている。ル・フォル農相が実際に行えたことと言えば、ラジオ番組に出演し、スーパーなどの大規模小売店に対して、卵の生産者価格を下げる圧力をかけないよう呼び掛ける程度にとどまっており、それとてもどの程度の効果が上がるのかは定かでない。
フランス国内の経済的な地域間格差という点において、明らかな劣位にあるブルターニュで起こった今回の出来事だが、事態の打開に向けこれといって打つ手は見当たらず、農産物価格が決まっていく複雑なメカニズムの谷間で関係者が皆立ちすくんでいる様子はいかにも厳しい。