「ダブルワーク」をどう見るべきか

現代日本における労働をめぐる情勢から考えると、二つ以上の仕事を掛け持ちするという状態は、「充分な収入を得るためにそれが必要だ」という見地から主に考えられることになるだろう。その意味では現時点での仕事掛け持ち、すなわち「ダブルワーク」という概念が持つイメージはあまり良いものにはなりそうもないが、他の国、たとえばベルギーにおいては果たして、どのような語感でとらえられるだろう?8月16日付『ル・ソワール』紙は、「ダブルワーク」をめぐる状況とその評価について、立場の異なる2人の識者の見解を掲載している(Aurons-nous tous besoin d’un second job pour vivre? Le Soir, 2013.8.16, p.10.)。
連邦経済省の調べによれば、現在2つ以上の仕事を兼ねてやっているベルギー人は合計19万人。労働者人口に占める割合はわずか4.2%に過ぎないが、近年一定して増加傾向にあり、最近5年間でその数は13%も増えている。こうした状況について、ベルギー雇用者・技術者労働組合(SETCa)のミリアム・デルメー副委員長は極めて否定的だ。彼女の見立てでは、パートタイムや非正規雇用の圧倒的な増加、それに必然的に伴う個々の契約に対する報酬の低下が、多くの労働者をやむなく2つ以上の仕事をこなす状況に追いやっている。掛け持ちは人々が好んでやっているのではなく、単にそれが必要な収入を得るために必要だからだ。一方でパートタイマー等は雇用者にとって、労働力の柔軟性を確保する上で極めて重要な役割を担っている。これらの動きが相伴う形で、結果的に労働の規制緩和が野放図に進むのではないかとデルメー氏は強い懸念を示している。
ただ、一方で調査によれば、ダブルワークをしているベルギー人は相対的に高学歴の者が多く、暮らしのためやむを得ず兼業しているというイメージとの食い違いも見え隠れする。この点にとりわけ着目するのが、ブリュッセル商工業連合(BECI)会長で、インターン斡旋企業ダウストの社主でもあるジャン−クロード・ダウスト氏。彼は、ダブルワークが生活の必要上なされている選択である以上に、むしろ就業者の好みに基づく選択の問題であるとの見方をとる。そして、インターンシップ制度により働いている学生の半分が同じ会社での正規雇用をオファーされるにもかかわらず、敢えてそうした「安定した雇用」を求めようとしないケースが少なくないことも挙げて、働き手の主観のレベルで流動化が起きており、それが一つには「ダブルワーク」という形で現れていると指摘するのである。
もっともダウスト氏から見ても、ある種のダブルワークが(たとえ主体的になされているとしても)労働者の疲労を蓄積させたり、職場の安全の面で課題を生じさせる点は少なからず問題として映るようだ。国が最大就業時間規制を厳しく規定しても、個々の労働者が勝手に長時間労働してしまうのを止めることはできない。そして、政労使協議の場でも労働時間に関する柔軟化の動きが次第に進み、好まざるダブルワークに従事する労働者に対する歯止めが効かなくなってきている(とりわけ景況の安定しない現代ヨーロッパにおいては)ことを考えれば、こうした現象にまずもって警戒的に接するべきという点は、ある程度自明といってよいのではないだろうか。