パリ・サン−ラザール駅の大改装工事ついに完成

昨年末にパリを巡った際、サン−ラザール駅が大規模工事中だったことはこのブログに記した(2011年12月28日付)。ホーム周辺はともかく、出入口あたりの光景がすっかり変わっている(掘り返され、また工事が着々と進んでコンコースには以前の跡形もない)のに驚いたが、それもそのはず、長年実施されてきた改修のちょうど仕上げの時期にぶつかったのだった。3月21日付の『ル・パリジャン』紙パリ市内版では、いよいよ新装成った同駅の施設、その工事の足跡や新たな特徴などについて伝えている(La nouvelle gare Saint-Lazare se dévoile. Le Parisien – Le Journal de Paris. 2012.3.21, p.3.)。
毎日約1,600本の列車が発着し、約45万人の乗降客(パリ市内で北駅に次いで第2位)が行き交うサン−ラザール駅。19世紀にはパリのブルジョワジーが北海沿岸に出掛けるため利用する駅といったイメージが強かったが、都市の発達につれてパリ中心部と郊外を結ぶ結節点という役割が増し、最近では1930年以降大きな改修を経ていない駅舎は機能面で限界に達しつつあった。ただ駅の建屋は歴史的建造物に指定されていて外壁等に手を付けにくく、また周辺も建築密集地域であるため拡張の余地がない。そこで行き着いた結論が(当然とは言え)「地下を利用する」ということ。地下1階から3階までが新設され、B1はショッピングフロア、またB2、B3は駐車場として使用する計画が出来上がった。またコンコースには2階から地下1階まで吹き抜けの空間を広くとり、さらにその上にガラスの天井を配置することによって、自然光が下の層まで届く工夫もされている。
工事が本格的に始まったのは2003年で、完成までに約10年が経過。総工事費は2億5千万ユーロだが、フランス鉄道公社(SNCF)が負担したのは9千万ユーロのみで、残りは商業・サービス施設の管理運営を担うクレピエール−セジェセ・グループが支払うという、一種の官民共同プロジェクトとなっている(公的セクターだけでは賄いきれない膨大な改築費用を捻出するための便法という側面もある)。改修に至った経緯からして、SNCF側は乗降客の利便性の向上を最大の目標に据えて工事に臨んだ。その結果、エスカレーターやエレベーターが大幅に増設され、地下鉄との接続が今までよりかなりスムースになっている。また駅構内の各所にサイン表示を施したほか、行先別の発車時刻やホーム番線などを刻々と示すディスプレイを配置することで、乗客への情報提供を格段に充実させた。
そして成り行きからして大方の注目を集めているのが、総面積1万平方メートルにわたるショッピングフロア。新コンセプトで出店する「カルフール・シティ」(550平方米)、音楽・映像ソフトでおなじみ「ヴァージン・メガストア」(1,000平方米)、そしてファッション大型店「エスプリ」が主要店舗として出店するほか、安売りスーパー「モノプリ」、男性ファッション「セリオ」、その他「ロクシタン」「クスミティ」など全80ものテナントが新たに登場する。主な顧客はもちろん、通勤・通学の行き帰りにこの駅を利用する人々になるだろうが、これまで周辺地域(「プランタン」「ギャルリー・ラファイエット」をはじめ専門店も多数)に向かっていた買物客を吸収する流れができる可能性も指摘されており、このあたり一帯はますます熾烈な商業激戦区になってくる可能性が高い。
クロード・モネの著名な絵画(1877年、オルセー美術館蔵)をはじめ、印象派の画題にしばしばなってきたサン−ラザール駅。当時の面影を今も残しつつも(ホームまわりは改修によってもほとんど手が加えられていない)、新たに魅力的な空間となってお目見えしたその姿に、また遠からず出会うことができればと思っている。