ブリュッセルの市電・バスは今日もノロノロ運転

公共交通機関は効率的な都市生活を成り立たせるための基本的なインフラ。だが世界的に見ても、中心市街地でJRのような鉄道や地下鉄が充実している大都市はそれほど多くはない。日本では東京や大阪ぐらい、ヨーロッパのフランス語圏ではパリが唯一そのような都市で、中心部でバスなどに乗らず地下鉄でだいたい用が済むというのは、実はかなり例外的な便利さなのである。
ベルギーの首都で、国内第一の都市でもあるブリュッセルでは、地下鉄が3系統、さらに市電が一部区間地下にもぐって走る「プレメトロ」などというのもあるが、やはり普通の市電(トラム)やバスに依存する割合が高い。そんなブリュッセルで、トラムとバスの速度が年々低下しているという記事が、2月17日付けの『ラ・キャピタル』紙に掲載されている(Trams et bus de plus en plus lents. La capitale, 2009.2.17, pp.4-5.)。
ブリュッセルで地下鉄、トラム及びバスを運営するブリュッセル首都圏交通公社(STIB)の2008年次報告書の公表を前に、ブリュッセル首都圏議会で明らかにされたデータによると、ネットワーク全体の平均時速で見るかぎり、トラムもバスも状況は3年連続で悪化している。トラムは2006年の時速17キロから16.8キロへ。バスは17.6キロから16.9キロへと急激に遅くなった。ちなみに地下鉄は平均時速29.8キロというから、差は歴然としている。
『ラ・キャピタル』紙は時速の遅いトラム・バス路線のワースト3も挙げているが、ブリュッセル中心市街地を南北に貫通するトラム92号線を除くと、総じて市域の南部と市街地を結ぶ路線の成績が悪いようだ。トラムでは時速12キロ、バスでは最悪の54号線で9.8キロという結果である。あくまで平均時速であるから、時速5キロ、6キロといった急ぎ足並み、自転車並みで走っている時間帯もあるのではないか。
STIBの広報担当であるジャン−ピエール・アルヴァン氏によれば、公共交通機関ノロノロ走らざるを得ない第一の要因は自動車の急増であり、もう一つは数多く実施される道路工事である。トラムの場合、専用軌道でない通常の道路上を走る際に、道路交通の影響を直接受けることになる。STIBでは、乗車券売場を増やすことで停留所での乗降時間の短縮を図るとともに、少しずつではあっても専用軌道やバスレーンの拡大を進めているようだが、スピードアップにつながるところまでは全く至っていないようだ。
ひるがえって日本の状況を考えると、東京と大阪以外の大都市、特に地下鉄の発達が進んでいない京都などで、バスの遅さが深刻なように思える。上記の記事のように公共交通機関の平均時速を論じる報道は日本では見たことがないが、きちんと調査すれば、あるいはブリュッセルよりよっぽど厳しい現状が浮かび上がるのかもしれない。