レマン湖遊覧船の寄港地紛争

湖を行く遊覧船と言えば、洋の東西を問わず、それ自体が観光資源であるとともに、沿岸の観光地を結ぶ重要な足でもある。ましてスイス南西部のレマン湖となると、世界に誇る山岳地帯を眺めながらのクルーズはこたえられない。ところがそんな遊覧船でも、地元自治体との間で少しばかりあつれきが生じているらしい、という記事を、2月3日付けの『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』紙が掲載している(La CGN desservira les petits ports genevois. Tribune de Genéve, 2009.2.2, p.20.)。
紛争の直接の発端は昨年11月。レマン湖遊覧船を運営する「航行統括会社(CGN社)」(la Compagnie Générale de Navigation)が、燃料費の高騰等を理由に、ジュネーブ市をはじめとする周辺自治体からの助成金の増額を要請した。ところがジュネーブ市は、今まで負担を免れてきた同市以外の市町村(コミューン)も応分の負担をすべきであると主張し、逆にこれまで払ってきた30万スイスフラン(注:1スイスフランは約80円)の助成を、2009年分から凍結すると表明。この結果、経費の大幅節減のため、ジュネーブ周辺のベルヴュー、ヴェルソワ、コルジエ、アニエール、エルマンス、ラ・ブロットの6港に、今年から遊覧船が寄港しないという見通しが急浮上したのである。
事ここに至って当事者はそれぞれ妥協点を模索し始めた。まず上記各港のあるコミューンなどの拠出金を、ジュネーブ州地方整備局がとりまとめ、7万フランを確保した。これにジュネーブ市が5万フランを加え、計12万フランをCGN社の損失発生時等に備える基金とすることにした。CGN社もこうした地方自治体の動きに応じて態度を軟化し、結局今年4月からのハイシーズンには、従来通り各港を遊覧船が巡ることに落ち着いた。
めでたく解決、と言いたいところだが、今回の措置はあくまで暫定的なもので、2010年に向けてはまだ何も決まっていない。ジュネーブ市参事のピエール・モーデ氏は、同市以外の拠出金が現在の2倍にまで増えることが最終的決着に必要としているが、それだけの額を人口の少ないコミューンが支払える保証は今のところない。
他方でモーデ氏も、あるいはヴェルソワ市参事であるクロード・ジュヌカン氏も、口を揃えてCGN社の運営に主要な問題があると主張する。しかし、そもそもジュネーブ地区の遊覧船乗降客数は、ジュネーブ港が97%を占め、ヴェルソワが2%、その他の5港はあわせて1%にしかならないのだという。この記事のみに基づいた私見ではあるが、乗降客数の実態をどう考えるかが実は最大の問題ではないだろうか。
ホームページに掲載されているCGN社の時刻表を見ると、コルジエやアニエールのように、夏季に1日1往復が寄港するだけの港もある。それぞれのコミューンにとって、遊覧船がどれだけの意味を持つのか、地域振興のためなら力を入れるべき領域はほかにもあるのではないか。今回の事態はそうしたことを改めて考えてみる機会のような気がしてならない。