世界経済危機の試練に立つ「ダッチ・モデル」

米国発の経済危機の影響は言うまでもなく世界全体に及んでいるが、影響の程度は国ごと、地域ごとに異なっている。その中で、通商国家として知られるオランダは、世界経済危機による打撃が相対的に大きい国の一つなのではないか。4月28日付けのフランスのカトリック系一般紙『ラ・クロワ』紙は、アムステルダムとハーグの特派員によるレポートで、オランダの経済状況を分析している(Les Néerlandais voient fondre leurs économies. La Croix, 2009.4.28, p.11.)。
まず主な経済指標から見てみよう。過去5年ほど2、3%程度を維持してきた経済成長率は急激に落ち込み、2009年にはマイナス3.5%になると予想されている。対GDP比財政赤字も、ゼロ前後の水準から、2009年は2.8%、2010年には5.6%まで達すると見られている。失業率は、これまでの3、4%程度が、2010年に10%にも達する可能性がある。オランダを代表する大企業フィリップス社は今年の第1四半期に5,900万ユーロもの赤字を計上しており、また通商の拠点ロッテルダム港の通行量は10%減少している。
「開放国家であり、エネルギーや先端エレクトロニクスの輸出を経済の軸に置いているオランダは、国際経済の落ち込みの影響を急速に、かつ深刻に受けています。またINGなどのオランダの銀行は、米国への投資額が大きく、サブプライムローン危機の影響を直接蒙ることになってしまいました」と、ファイナンシャル・コンサルタントであるブルト・ロスト・ファン−トニンゲン氏は、取材に対し説明する。また企業法務事務所勤務のアントワーヌ・エンツ氏は、「企業清算は今年の第1四半期に約1.8倍増加しました。小売業と流通業が特に目立ちます」と現状を示す。
このようなマクロ経済の不振は、一般世帯にどのように響いているのか。記事によれば、一般のオランダ人世帯はこれまで比較的熱心に株式等への投資を進めてきたが、今回の金融危機によって所有証券の価値は40%ないし半分程度に下落してしまったという。オランダ人1人当たり26,000ユーロを失った計算である。さらに追い討ちをかけるのは年金基金の巨額損失。経営者団体VNO−NCWのチーフ・エコノミスト、ヤム・クラフェル氏は、「一定期間年金を凍結する協定が、既に当事者間で締結されました。しかし、結果として年金を減額しなければならない可能性は残っており、人によっては65才以降もやむなく働き続けることになるかもしれません」と悲観的な展望を明らかにしている。
ファンートニンゲン氏は、諸経済指標が旧に復するまでには、最悪の場合10年以上かかるかも知れないと述べている。90年代後半に「オランダの奇跡」と呼ばれた好況は過去のものとなっているが、その後もオランダは比較的堅調なパフォーマンスを維持してきた。今般の危機にどのように立ち向かうか、他国と同様に、オランダでもその道筋は未だ見えてはいないようだ。