ブリュッセルの再開発に既存商店街が反発

ブリュッセルを訪ねるときは、歩行者専用道路になっている中心部の商店街、ヌーヴ通りに立ち寄るのが常だった。主な目的地はショッピングセンター「シティ2」。お馴染みのチェーン書店フナックのベルギー国内最大(ただし確証なし)店舗が展開していて、フランス語の本やフレンチポップスのCDなどを買い込んだものだ。いかにもベルギーらしく、店内に入ると左半分はフランス語、右半分はオランダ語の書籍を並べている。当時3階(ヨーロッパ風に言えば2階)にあったフナックで買い物を済ませたら、1階や地下のフードコーナーで軽食。そう言えば、シティ2の隣りがベルギー随一のデパート「イノ」で、バーゲンの季節に30%オフのネクタイを探したこともあったっけ。
ところが最近、そのヌーヴ通りや近くのアンスパック大通りの商店主たちが激怒していると、5月7日付けの『ル・ソワール』紙は伝えている(La rue Neuve menacée. Le Soir, 2009.5.7, p.22.)。怒りの直接の原因は、中心部からほど近い旧工業地域で実施されている再開発計画。ブリュッセル北西部、運河沿いの元貨物駅トゥール・タクシー地区に建設予定の、8万平方メートル規模の複合商業施設は、実のところアンスパック大通りから2キロも離れていない。
シティ2内も含め600店が参加するヌーヴ通り商店会のアラン・ベルランブロー氏は、「常識に外れてますよ、ひどすぎます!」と憤りを露わにする。彼にとっては、調整委員会(日本の旧大店法にもそんな組織があった)がトゥール・タクシーで認めた8万平方メートルは、法外な広さと映る。「シティ2は3万1,000平方メートルですよ。その3倍もの施設を、(郊外ならいざしらず)街のすぐ外縁に作ろうというのですから」。
同氏がブリュッセル市役所に出向き、都市計画担当助役のクリスティアン・スー氏に抗議したところ、スー氏は慌てず「不安がることはありません。8万平方メートルには、フィットネスクラブと美術館が含まれているんです」となだめたらしい。しかしもちろん、ベルランブロー氏の不安が止むことはない。「少なくとも5万平方メートルの施設が直接の競争相手になるんです。しかも、お客様の60%が車でおいでになるにもかかわらず、ブリュッセル中心部の道路交通はますます悪化している(参考:2月21日付け日記)という現状のなかで、そのような競争が始まるわけです」。確かに新しい施設は駐車場をしっかり確保して既存商店街に対抗してくるだろう。
実はこうした動きの背景には、中心部の道路交通を制限していこうという都市計画の思惑がある。ヨーロッパの大都市では軒並み検討されている方向性であり、それ自体が不当とは言えない。ただその場合には、中心部をどのような地帯として未来に活かしていくのかのヴィジョンとそのためのインフラ整備(公共交通機関など)が不可欠だろう。それが見えない以上は、ベルランブロー氏の、「アンスパック大通り周辺の再開発に手をつけようともせず、ただ通りの車線を削減しようとする。それは中心市街地を滅ぼそうとすることではないのですか」という悲痛な叫びも、全く根拠なしとはならない。
今回の記事はヌーヴ通り商店会の主張に焦点を合わせているので、より広い視野からブリュッセル市街地のあり方の検討状況を見ることが必要なのは明らか。ただ、中心市街地、郊外ショッピングセンター、再開発地域間の競争、さらに2010年代にはブリュッセル内外で合計25万平方メートルの新たな商業施設が登場してくる予定という情勢下では、行政としてブリュッセルの商業上のキャパシティをきちんと見極めていく必要性は、これまで以上に高まっていくのではないだろうか。