峠道の「安全策」は総スカン?

高速道路を走っていると、様々な表示や舗装状態の変化などで、安全確保のための細かな工夫がされていることに気づく。知恵を絞って多様な方策を編みだしている専門家の方々の苦労は相当なものだろう。ところがスイスでは、せっかく導入した安全策が期待された効果を上げないどころか、利用者の激しい反発を招いているという。5月13日付けの『ヴァンキャトルール』紙がそのあたりを詳しく伝えている(La sécurisation de la route progresse, la grogne aussi. 24 heures, 2009.5.13, p.31.)。
レマン湖畔の街ニヨンから山間部を縫いながらフランス国境を越えていく基幹道路では、スピンカーブの続く区間の安全走行を図るため、このほどニヨンとサンーセルグの間で、カーブの前後にわずかな隆起を施す工事を行った(日本だと、居眠り運転防止を目的とした、「ガタガタ」と来る舗装部分をイメージすればよいか)。工事実施に当たっては地元住民からの陳情もあったようで、無謀運転の減少効果が大いに期待されての登場だったのだが、完成早々いきなり運転者からの苦情や批判にさらされている。
最初に不満ののろしを上げたのはライダーたち。オートバイ愛好者のウェブサイトでは、隆起を越えて走るのが運転者にとって身体的にひどく負担になっているという声のほかに、実は猛スピードで走れば隆起の衝撃を感じずにすむ(つまり隆起の設置は逆に無謀運転をあおっている)との意見も続々書き込まれるありさまである。
そのほか、自転車ツーリストは隆起の部分で転倒するのではないかとの恐怖を感じており、自動車の運転手も、車が傷つくのではないかとの疑念に加え、隆起を越える際の腰への負担がひどいと苦情を述べている。結果として彼らは一様に、この区間を通らずに済む抜け道探しに動いており、周辺の町村は、これまで静かだった市街地に大量の車やオートバイが流入してくるのではないかとの不安をもらす。
ついには、当初安全策を陳情したはずの沿道の町からも疑問が呈される状況に発展。サンーセルグの町長ステファン・ナタリーニ氏は、「(陳情から工事に至る)手続き自体は大変良かったのですが(←この部分自己弁護)、今では採用された安全策に納得していません。むしろ観光など、経済面に影響が及ぶのではないかと懸念しています」と語る。一方工事を施工した州警察では、スイス初のパイロットプロジェクトであり、季節ごとの状況変化なども含め1年間は様子を見たいとしていて、当面動き出す気配はない(立場上それはそうだろう)。
運転者側からの苦情を中心に構成された記事ではあるが、もう少し工事実施前に、効果を慎重に予測しておくことはできなかったのかというのが率直な感想。おそらく交通工学とは、微妙なやり方の工夫次第で効果が増大したり逆に負の効果が生じたりする、とてもデリケートな領域なのだろう。

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今読んでいる、清水徹根本長兵衛監修『読んで旅する世界の歴史と文化 フランス』(新潮社、1993)に、パリ市内の記念銘板についての説明があり、モリエールバルザックなどの著名フランス人の銘板のほかに、「日本人では、第9区のロディエ通り53番地に短歌作家の名を刻んだものがある」(p.126 稲生永執筆)と書かれているのだが、肝心の「短歌作家」の名前には一切触れられていない。なぜ、そしてどんな背景が?知る人ぞ知るという世界ではあるのだろうが、まずはロディエ通りに行って確認するしかないのかしらん。