失業率統計から見えてくる地理的特色

貧困が個別世帯の問題であるだけでなく、いわゆる貧困地域と呼ばれる場所が存在するように、諸々の社会的差異(多くの場合不平等)は地理的に表現されることが多い。その有様を明らかにし、背景や対策などを検討することは社会地理学の大きな課題ともなっている。
それで、以下はまあ当たり前とも言えるけれど、差異を計測する空間単位が細かくなればなるほど、差異の存在はより鮮明に見えてくる。日本で都道府県単位よりも市町村単位の方が問題の在処をはっきりできるように。スイスの場合、通常は州単位の統計で社会状況の把握を行うものらしいが、2月15日付の『ル・タン』紙の記事によれば、このたびジュネーブ大学雇用問題研究センターで州の一つ下の地域単位をとって失業率を計測したところ、いろいろと興味深い状況が明らかになった(Chômage: les grandes disparités de la carte romande. Le Temps, 2010.2.15, p.7.)。
同センターのジャン−マルク・ファルテル研究員は、今回の調査によって、言語圏ごとの失業率の差異が明確になったとしている。スイスではベルン、フリブール、ヴァレの3州でフランス語圏とドイツ語圏が混在しているが、地域単位で失業率を調べると、同じ州の中でも、フランス語圏の方がドイツ語圏よりも失業率は明らかに高くなっている。ファルテル氏によれば、これは両言語圏で失業という事態に対する意識が異なっていることによるのではないかとの由。つまりこの場合は言語による不平等が生じているというより、あくまで両者の文化的な違い(ドイツ語文化圏の住民の方が失業した際の復職に熱心であるとか)に基づくのではといった分析だ。最初記事を読み始めた時は、フランス語を話す人々に働き口が少ないというようなことかと思ったが、少なくとも研究者の見方はそうではないらしい。
言語圏の問題以外では、ジュネーブローザンヌというフランス語圏の2大都市で失業率が高めであることが示されている。ジュネーブはもともと1つの州をなしていて統計上捕捉可能だったが、ローザンヌはヴォー州の一部であるため、今回の地域別調査で改めて失業率の高さが浮き彫りになった形。両市とも、職を求める人々が一般に中心市街地へ集中して住む傾向があることが原因と見られ、ジュネーブ州内の各市町村(コミューン)の失業率を示した別の調査でも、特にジュネーブ中心区域の失業が厳しいことが明らかになっている。
その他、時計産業が盛んでその動向の影響を受けやすい北方のヌーシャテル州やジュラ州では、前回2000年の不況はほぼ乗り切ったものの、今回の世界経済危機の波はやはりかぶっていて、失業が増大していることが各地域のデータからわかる。一方南部のいくつかの地域では、積雪に生活を阻まれる冬季にとりわけ失業率が増大するのだそう。フランス語圏スイスはたかだか1万平方キロぐらいの小さな地域だが、自然や文化の違いによって失業率一つとっても実に様々な表情を見せていると言えるだろう。