ギリシャだけじゃない南欧諸国の経済不安

新聞で日々報じられていることのおさらいみたいな部分が多いかもしれないが、今日はEU経済危機の最近の動向について。日本ではもっぱらギリシャ一国が最近の危機の元凶のような報道が多いように見えるけれど、2月25日付『ヴァン・ミニュート』紙は、問題はギリシャだけではないと改めて警鐘を鳴らしている。(Les vont être mis au régime au sec. 20 minutes, 2010.2.25, p.8.)
言うまでもなく、ギリシャ経済は非常に危険な状況にある。財政赤字国内総生産(GDP)比で12.7%に達し、同国の経済健全性は強く疑問視されている。当面、この値を今年中に4ポイント下げることを目標として、付加価値税及び化石燃料、たばこ、酒類等の各種税率引き上げ、奢侈品購入への課税、公務員の給与引き下げなどからなる緊縮政策が打ち出された。しかし、こうした政策に反対するデモや暴動の頻発など、社会不安が表面化しつつあり、問題をさらに複雑にするおそれも強い。フランス経済情勢研究所(OFCE)のエリック・エイエル研究員は、「これらの措置は厳し過ぎ、またこの国が金融危機から脱していない現時点では時期尚早でもあります」と指摘する。まずギリシャに対して、EUやIMFの支援といった国際的な対応策が検討され始めているのは当然だろう。
だが実は、潜在的に危機状況にある国はほかにもある。ポルトガル、イタリア、スペインがそうで、ギリシャを含めた英語の頭文字をとって「PIGS問題」とも呼ばれる(アイルランドをここに含める場合もあるが、『ヴァン・ミニュート』紙は南欧4か国に限って取り上げている)。まずは不動産バブルの後始末に苦悩するスペイン。昨年秋以来の経済危機で、失業率が400万人に達している一方、政府は現在9.6%に達しているGDP比財政赤字を2013年までに3%まで減らすため、当面5,000億ユーロもの財政削減を計画しているとのこと。緊縮策が円滑に実施されうるかが大きな焦点となる。
ポルトガルでは最近、GDPに対する財政赤字が9.3%まで急上昇しており、国の負債総額もGDP比で76.6%と高水準。投資家の不安を反映して長期金利が上昇傾向にある。イタリアは財政赤字こそ他の3か国に比べて低めなものの、稼働率の低下、産業競争力の弱体化が著しく、労働市場の冷え込みが顕著になってきている。結果として、現在ギリシャで見られる社会不安が、スペインやポルトガルなどに飛び火する可能性もあるとも言われる。
スイスのインターナショナル・ビジネススクールローザンヌ)のアルトゥロ・ブリス教授も、2月20日付『ル・タン』紙のインタビューに答えて、こうした危機の連鎖の可能性に言及している(, Le Temps, 2010.2.20, p.22.)。ギリシャではかなり以前から、自国の経済が脆弱であること、財政赤字が膨れ上がっていることについて、政府が国民に対し明らかにしてきたのに比べて、他の3か国では経済が危険にさらされていることがほとんど一般に認識されていない。国民が真実を知らないことこそが重大な問題であり、将来起こり得る危機(市場資金の急激な引き揚げなど)をより激しいものにしかねないとブリス教授は主張する。
こうした記事を読むと、ギリシャをはじめとする南欧諸国の経済状況、危機に備えるEUの取組みや新制度設立の動き、独仏の思惑などに、今後も注目していかなければならないと思えてくる。一段落着くまでの道のりはまだかなり遠そうだ。