岐路に立つ国際情報発信

文化交流の媒体、ひいては一種の外交ツールであり、国外に居住する自国民に対する情報伝達手段でもある国際放送。かつては短波ラジオ放送が中心だったが、最近はインターネットを通じた画像、音声、動画の提供がメインになりつつあるようだ。ただ、グローバル社会でこうした情報発信がさらに求められる背景がある一方で、財政面の制約から見直しの動きも少なくない。2月27日付『ル・タン』紙は、スイスでの国際情報発信をめぐる再編の動きについて伝えている(Suisseinfo doit se restructurer pour ne pas disparaître. Le Temps, 2010.2.27, p.8.)。
スイスでは、1999年に「スイスインフォ」のサイトが設立され、インターネットによる国外に向けた情報提供が本格的に始まった。2004年にはそれまで短波放送等を行ってきた「スイス・ラジオ・インターナショナル」が送信を終了し、発信媒体はネットに一本化。国とスイス放送協会(SSR)がそれぞれ半額負担する形で運営し、ドイツ語、フランス語、イタリア語(以上スイス国内の公用語)、英語に加え、スペイン語ポルトガル語アラビア語、中国語そして日本語で情報を送り出している。
今回の動きは直接には、スイス政府が25日、2012年までにスイスインフォに対する国の支出を廃止する方針を打ち出したことに端を発する。これは単純に言うと、現在2,600万スイスフラン(約22億円)の年間予算が1,300万スイスフラン(約11億円)まで削減されること(SSRからの支援増額がまず期待できないとすれば)を意味し、到底現在の事業体制が維持できるものではない。
一方SSRでも、昨年からスイスインフォの再編について検討を重ねてきており、現在のところ3つの案が上がっている。一つはSSRのドイツ語圏ラジオ部門(DRS)、もう一つはフランス語圏放送部門(RTS)に属させるというもので、いずれもSSRの直接の傘下に置く案。3つ目は年間予算を1,900万スイスフラン(約16億円)に切り詰めつつ、運営の独立性は維持するというものだ。
これまでも、2003年から2006年にかけてスイスインフォの運営見直しが本格的に議論された経緯がある。主としてスイス政府とSSR側から出た動きだったが、この時は議会によって拒否された。しかし今回どうなるかはまだ見当がつかない。スイスインフォの発信対象の一つである外国居住のスイス人を代表する機関、在外スイス人協会のジャック−シモン・エグリ氏は、「私たちにとって最も大事なことは、スイスインフォがその実質、またその独自性を失うことなく事業を続けてくれることです」と力を込める。
確かに予算が削減されれば、送り出される情報の量や質の低下に結びつく可能性が高く、その意味で現在の動きはスイスインフォにとって危機と言ってよいだろう。ただ、SSRからの独立性の有無が発信内容に与える影響については、傍からはよくわからないところがある。まずは現在提供されている日本語版の内容を見てみることから始めなければ。