電子投票、紙に逆戻り?

もうだいぶ手垢の付いたことばだけれど、「電子政府」論というのはいまだに存在していて、その一部に「電子投票」をめぐる議論がある。ベルギーはその先進国であると言われ、実際に90年代からそれなりの実績を積み上げてきた。ところがここに来てその雲行きが怪しい。4月6日付『ル・ソワール』紙は、最近ベルギー国内で起こっている電子投票見直しの動きを報じている(Le retour du vote papier? Le Soir, 2010.4.6, p.13.)。
 記事によれば、ブリュッセル首都圏地域議会でこのたび、電子投票制度に関する決議案が委員会で可決され、近く全体会でも採択の見通し。この決議案では、2012年に予定される区議会選挙を、より透明性と安全性の高い電子投票の方式で実施するか、あるいは投票用紙を使用する従来型の選挙方式に切り替えること、2011年の総選挙において、ブリュッセル首都圏内の選挙区で紙併用型電子投票方式の実験を行うよう連邦政府に要求することの2点が掲げられている。これはつまり、元通りに選挙制度を戻すか、少なくとも紙を部分的でも使う制度に改めるという方針に他ならない。
 ベルギーでの電子投票は、投票所にあるパソコンをタッチパネル方式で操作し、磁気カードに投票内容を登録して、読み取り装置のついた投票箱にカードを入れるという方法で長く実施されてきた。しかし未だに安全性、信頼性をめぐる疑念を払拭できないため、結局紙との併用方式への移行、または紙投票の復活が取りざたされているのだと言える。
 また、コスト面でも電子投票は紙の投票に対して優位に立っていない。ワロン地域で全面的に電子投票制度を導入した場合の経費は1,000万ユーロと見られるが、これは紙投票でかかる費用の6倍とされる。
 まあ、この一事をもって電子化全般を否定する必要もないし、おそらく投票という制度に電子化がややなじみにくいということなのだろう。言い換えれば、何でもかでも電子化すればよいというものでもなく、その得失をよく考えてから導入すべきということか。技術の向上によって変化する側面もあるし、要は試行錯誤にならざるを得ないのかもしれない。

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高階秀爾『続 名画を見る眼』(岩波新書、1971)からの一節。
「芸術の都パリの名は、今でも若者たちの間に、どこか懐しい響きを持ったものとして、抵抗し難い魅力を持っている。だがその魅力は、第一次大戦前の世界においては、いっそう強烈で、いっそう甘美なものであったに違いない。」(165ページ)
本書刊行からさらに約40年が経過し、「芸術の都パリ」の魅力なるものは、もはやその強烈さも甘美さも概ね失いつつあるように思われる。だが、失ってから見えてくるものもあるのが世の常。魅力に目を眩ませられることなく、パリをどう見つめ、どう書くか。