麦価暴落で農民デモ

EUが推進する農業自由化がもたらしている困難については、以前スイスの乳業事情として触れたことがある(当ブログ2月13日)が、今回は小麦。麦価低迷により生活が成り立たないとして、パリとブリュッセルで小麦農家による同日デモが敢行された。4月28日付『ル・ソワール』紙の記事から、ベルギーでの状況を中心に見てみる(Vent de colère sur les céréales. Le Soir, 2010.4.28, p.24.)。
4月27日朝、ブリュッセルの市街地で気勢を上げたのは、ワロン農業連盟(FWA)や青年農業者連盟(FJA)のメンバーたち。欧州理事会欧州委員会の本部前に小麦をぶちまけるなどの示威行動が展開されたというのは、さすがEUの本拠地らしい。「市場が適切に調整されないため、数年来酪農家が陥っていた状況に、我々も今まさに直面しているのです」と、ルネ・ラドゥースFWA会長は説明する。1トン当たり90ユーロという現在の農家買い付け価格の水準では、生産費用にすら満たないというのが彼らの主張だ。そして、農家への所得補償の実施とヨーロッパの食糧自給を運動の目標に掲げる。
農民たちは、2008年頃の麦価水準を基にして現在の価格が極端に暴落していると表立っては主張しているが、実はこの主張があまり適切でなく、2007年から2008年にかけての価格はバブルであったということに気づいている。FWA事務局内には調査部門も設置されており、調査に従事しているルネ・ファンスニック氏によれば、当時は世界的に小麦在庫が払底気味。新興国を中心に消費量が漸増する傾向もあり、そこに商品投機が重なって1トン当たり200ユーロという麦価高騰が生じたとされる。
その後経済金融危機を経て、小麦消費は減少傾向を示す。北アフリカを中心とした小麦輸入国からの需要が減り、供給が需要を大幅に上回った結果、麦価急落が生じた。さらに昨年から今年にかけては、10年ないし15年に1度しかないほどの世界的な大豊作になったこともあって、小麦価格は決定的に押し下げられることになった。
ファンスニック氏は、価格変動に対して農民側も適切な先物取引で利益を先行して確定させるなどの防衛策を講じていると説明するが、上記のように生産と消費が大変動する中では、少々の工夫によっては対処できないだろう。一方、乳価と同様、麦価についてもEUが自由化の後退、規制強化に動くことにはかなり無理がある。当面は農家にとって、小麦の供給過多が多少とも解消し、需給バランスが回復するのを、野菜など他の作物を栽培しながら待つしかすべはないのかもしれない。