「経済発展は大企業が頼り」

近年の金融危機のあおりを受けて各国で槍玉に挙がったのが、金融業界はじめ大企業全般で見られる幹部の高額給与。フランスでも事情は同じで、一部に規制がかけられたりしているが、それでなくても大企業は一般に批判的な目で見られがちだ。これに対し4月15日付の経済紙『レゼコー』は、フランスの大規模企業を取り上げた新刊書の紹介という形で、大企業がフランス経済に占める役割の重要性を指摘している(Eloge du CAC 40. Les Echos, 2010.4.15, p.13.)。その説くところを見てみよう。
紹介されている新刊書のタイトルは「我が国の未来は彼らが握る(Notre avenir dépend d’eux)」となっていて、ここで言う「彼ら」とは大企業を指している。フランスは名目GDPでは世界第5位(米、日、中、独に次ぐ)、一方『フォーチュン』誌の世界大企業500社(売上高が120億ユーロ以上の企業がここに入る)の中で仏企業は第3位の40社(1位はアメリカ、2位が日本)。これはフランス経済において、相対的に大企業の占める割合が高いことを示す一つの指標と言えるだろう。この傾向は既に数十年来のものだが、近年は言うまでもなく、各企業がさまざまな側面で国際化を推し進めてきていることに最大の特徴がある。本の著者セルジュ・ブランシャール氏の例えを使うと、「空母」に当たる各分野の大企業が基軸となり、フランスは世界経済戦争を戦っているのである。
こうした背景には、フランスの産業政策が一貫して、航空、原子力、化学、製薬等々といった戦略領域の強化を目指してきたことがある(これを介入主義的な大企業保護政策と批判する向きもあるようだが)。記事によれば、1981年(ミッテラン政権初期)の大規模国有化と1986年(シラク首相とのコアビタシオン)の再民営化という産業政策の振り子的転換でさえも、民営化後に各企業が飛躍を図る上の跳躍台の役割を果たしたのではないかとのこと。
今日、企業の多国籍化が進むにつれて、他国の資本にフランスの大企業が吸収されるケースも増えている。オランダ資本のミッタルに乗っ取られた鉄鋼業のアルセロール然り、買収に次ぐ買収の果てに多国籍企業リオ・ティントの傘下となったアルミ精錬業ペシネー然り。多国籍化の趨勢は避けられないのだから、企業が残ればまあよしとも思うのだが、記事の論調は、文化的な根を失った企業が工場閉鎖や人員削減を厭わなくなる可能性が高いことに批判的だ。台頭している各国の政府系ファンドに倣い、フランスでも国と公的金融機関(預金供託公庫)が出資している「投資戦略ファンド」がまさに戦略的な出資を進めることで、大企業を軸とする経済体制を維持し発展させることに注力すべきと主張している。
産業ナショナリズム満開の記事。記事の筆者(『レゼコー』紙論説記者)が序文を書いている新刊書の内容もそうなのだろう。自国経済の行方を憂う経済紙特有の論調に、またフランスらしさが横溢しているあたりが興味深い。