航空界は今日も視界不良

ヨーロッパの航空業界はここ10年以上激変の波にさらされている。激安航空会社の台頭、相次ぐ合併吸収、そして小国を中心としたナショナルフラッグ・キャリアの消滅など。ベルギーはスイスとともにこの3番目の事例に直面したわけだが、代替航空会社が設立された現在でも激動は続いているようだ。5月27日付フランスの経済紙『ラ・トリビューン』はこのブリュッセル航空の経営権を巡る動きを分析している(Lufthansa ne devrait pas prendre le contrôle de Brussels Airlines. La Tribune, 2010.5.27, p.19.)。
同社の前身に当たるサベナ・ベルギー航空は長く国営企業だったが、1990年代に入って多額の損失が発生する一方で、国による損失補填をEUの規制によって阻まれ、1995年に株式の49%がスイス航空に売却された。ところがこれがいわゆる「弱者連合」で、航空不況の時代になすすべなく、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件のあおりも受けて、直後にサベナ、スイス航空の両者とも経営破綻。その翌年、多数のベルギー大企業の出資を得てSNブリュッセル航空が誕生した。2006年には同じブリュッセル国際空港に拠点を置く英国系ヴァージン・エキスプレスと合併し、現在のブリュッセル航空に至っている。
ここで登場するのがルフトハンザ・ドイツ航空。2009年6月にEUの認可を得て、6,500万ユーロ増資の形でブリュッセル航空の株式の45%を取得し、同社をほぼ子会社化した。しかも当時の契約には、残り55%分についても、2011年から2014年までの間にブリュッセル航空の業績に応じた金額でルフトハンザが取得できるという、株式のコール・オプション(購入権)が付与されていた。つまり100%子会社化への着実な道が開かれているということになる。
記事が伝えるブリュッセル航空側からの情報によれば、来年の時点ではルフトハンザはオプションを行使しないだろうとのこと。これに対しルフトハンザ側はコメントできないとしている。事情通の見立てでは、最近買収したオーストリア航空BMI(イギリス)が共に業績不振で、既に今年の第1四半期に、合わせて1億1,100万ユーロの損失を生じているため、当面はそちらの処理と両社のリストラに傾注しなければならないのではないかとの由。
ルフトハンザにとって、ブリュッセル航空を支配下に置くのには戦略的な意味がある。一つは、パリとアムステルダムの中間に位置するブリュッセルを拠点として、エールフランス・KLMオランダ航空の連合に対抗すること。もう一つは、ベルギーの航空会社が伝統的に持っているアフリカへのネットワークを手中に収めることができること。
一方ブリュッセル航空にとっても、他国の資本とは言え、強力な企業の傘下に入ることは悪いことばかりではない。少なくともかつての「弱者連合」とその結末を思い出せば、多少はましな状況が期待できると言うべきだろう。
ただ、航空界で生き残りを賭けた攻防を続くなか、EU本部を擁するベルギーの立場がこの分野ではいっこうに安定しないのは残念な気もする。そのせいかどうか、サベナが成田便を廃止して以来、日本とベルギーを結ぶ直行便は存在しない。世界三極の一翼たるEUの本拠へダイレクトに飛べないというのはかなり不便なことだと思うのだが、どうだろう。