海岸トラム運行125周年を祝う

ベルギーの『ラヴニール』紙の記事を見つけたとき、これは不覚だったと思った。マニアではないが一介の鉄道好き、特にトラム(日本でいう市電)に興味を持っている者として、ベルギーにこれほど魅力に溢れたトラムがあることをここまで知らずに来たとは!全線69キロ、純粋な(=普通の軌道的なものを除いた)トラムとしては世界最長と言われるベルギーの海岸電車。6月12日付の『ラヴニール』紙はその現況と運転開始125周年(歴史の長さにもびっくり)の祝賀光景を伝えている(Kusttram: 125 ans, 70 arrêts, 69 km. L’avenir, 2010.6.12,p.19.)。
北海沿岸をオランダ国境の街クノッケ−ヘイストからフランス国境に近いラ・パンネまで結んで走るトラムの歴史は1885年に遡る。沿線で最も大きな都市であるオステンデと、西南西の町ニュープールトの間で運転されたのが始まり。その後延伸を重ね、1926年には現在の運行区間が全通した。19世紀末から20世紀初頭は、ベルギーの海岸全般が夏のリゾート地として定着し始めた時期で、鉄道でオステンデやブランケンベルヘといった海沿いの終着駅に着いてから、それぞれのリゾートに向かう便利な交通機関が待望されていた。そんな背景で作られたトラムが、いつしかオランダ・フランス両国境に近づくほどまで延長されたというわけ。現在は、フラマン地域のバス及びトラムを運営する公社「デ・ライン」が運行を担当している。全区間ではないにせよ、海辺の光景が車窓から堪能できる片道2時間23分の旅は、楽しみに満ちているに違いない(腰は少し痛くなるかもしれないけれど)。
一方、125周年記念行事も趣向がいっぱい。6月12日にはかつて走っていた車両によるパレードを展開(とはいっても、線路上をパレードさせるってどうやって?)。7月と8月の週末は、ラ・パンネの車庫に、蒸気機関車(1912年の電化以前に運行)なども含め、長い歴史を飾る車両が一堂に会しての展示が行われる。夏から秋にかけて、展覧会や写真コンクールなども開催中。変わったところでは、「トラムを乗り降りして、未解決の殺人事件の謎を解き明かしに行こう」なる趣旨のミステリー探検の旅企画なども組まれている。子どもたちが賑やかなんだろうなあ。
北海の光景は、地中海などに比べると、夏でもやはり輝きが足りないという印象が強いが、今度ベルギーを訪れる時には、ぜひこのトラムに乗ってみたい。車窓を通してみる海岸は、光も反射し、とても明るく目に映るかもしれないと思っている。