財政面でローザンヌと州内自治体の対立激化

隣りの芝生は青いというけれど、市や町のレベルでもついつい近隣と比較する気持ちが芽生えるもの。そんな気持ちの発露か、ローザンヌ市を州都とするスイスのヴォー州では、そのローザンヌとその他の市町村の間で、財政面の激しい対立が起こっているという。6月15日付『ヴァンキャトルール』紙上でそのあたりの事情を見てみよう(Lausanne accusée de dilapider l’argent des petites communes. 24 Heures, 2010.6.15, p.23.)。
スイスでは財政調整と呼ばれる制度が機能している。下位の自治体(例えば州から市町村)に財源を移転する過程で、各自治体の財政力格差を是正しようという趣旨の制度。財政調整の結果、一般には中規模の市町村から、大都市及びごく小さい村などに資金が再配分される形になると言われる。大都市は文化や福祉の面で地域全体のインフラの役割を果たすことから、また小さな村は財政力も極めて弱いので、それぞれ配分の対象となるというのが理論上の仕組みである。
ところが最近はとりわけ、ローザンヌ市に向けて他の市町村からの批判が集中している。ヴォー州議会では、ヴェイトー村の村長で州議会議員でもあるクリスティーヌ・シェヴァレイ氏が、同市への配分額を1年当たり300万スイスフラン(約2億5,000万円)減額するという案を提出。否決はされたものの一定の支持を集めた。ローザンヌがもともと巨額の負債を抱えているにもかかわらず、通学バスの一部無料化に財政調整で得た資金のうち100万スイスフランを投入した(昨年11月)こと、またヴォー州内で実施される最近の公共投資が、地下鉄2号線建設や新美術館建設(当ブログ2009年10月17日既報)、ヴォー大学医療センター(CHUV)拡張など、州都に特に集中しているように見えることなどが、よそからの反発に火をつけたらしい。
ヴォー市町村連盟会長であるイヴァン・タルディ氏(エパランジュ町長)の説明によれば、ローザンヌは左派優勢、一方町村部は右よりという政治的なスタンスの違いも根本的な対立要因としてあるとのこと。また、都市部は法人からの税収もあるではないかという町村側からの思いも強く、ローザンヌが治安等の分野にもっと負担してくれれば、地域全体のためにもなるという考え方が広く受け入れられている。
一方、ローザンヌ市側は、財政調整では他の市町村からの不満はつきものという考え方。都市開発広報課長のドゥニ・デコステール氏などは、「小さな町村は非常に複雑な問題に直面していて、本来は世界の変化そのものに非難をぶつけたいのでしょう。当市はそうした町や村に広がっている困難な状況の、いわばはけ口になっているのです」と取材に対して述べている。確かに過疎化と町村合併が進み、ローザンヌやその近郊にますます注目が集まりがちな現状を考えると、間違った指摘ではないのだろうが、州内自治体の対立という問題への向き合い方としては少しシニカル過ぎるようにも思える。どう見ても基本的に有利な立場にあるのだから、せめて真摯な対話の姿勢ぐらいは崩すべきではないのではないか。