意気盛んな物流基地2題

何のタイミングによるのか知らないが、8月後半のフランス『ル・フィガロ』紙の経済面で、オランダの物流拠点が2回続けて取り上げられているので、少し読んでみる。まずはアムステルダム近郊の花卉市場についての記事から(Aalsmeer, le marché aux fleurs à l’accent international. Le Figaro, 2010.8.20, p.25.)。
スキポール国際空港にも程近いアールスメーア市に、世界最大と言われるその市場はある。「フローラ・ホーランド」というこの花卉生産者の協同組合は、国内の他の5つの施設と併せて、年間38億ユーロもの売上高を誇る大規模なマーケット。エクアドルケニアなど60余の国々から草花や植物が輸入され、オランダ国内で生産されたものも含めて取引された後、取扱量の80%が再び輸出されるという形で、世界の花卉物流のかなりの部分を引き受けている。
市場の朝は早く、午前4時には100人ほどの流通業者によるその日の花々のチェックが始まる。バラやグラジオラスからサボテン、バナナの木まで、あらゆる花や植物が並べられた巨大な冷蔵室。業者の徹底した検分の後で、午前6時からはいよいよ競りが始まる。ここでの競売は最高価格から順次値段が下がっていき、最初の買い手がボタンを押したところで落札となるらしい。
ヴァレンタインデー直前に1億本のバラ、9,000万本のチューリップが動くメガマーケットではあっても、最近はやはり世界的な競争環境にさらされている。しかし「フローラ・ホーランド」はこうした事態に対してすでにいくつかの手を打っている。一つは輸出業者向けの新たな施設の設置。競売場のそばに設けられた建物を使えば、1時間半以内に輸出準備が完了し、多くの花々を空輸して、その日のうちにアメリカの店頭で販売するといったことが悠々可能になる。もう一つの策は、イスラエルケニア、フランスといった外国の生産者を2008年に協同組合組織の一員として迎え入れたこと。彼らが別の市場組織を結成する前に囲い込んでしまおうというわけだ。
それでも、最近の世界的な不況の波は避けられず、2009年の売上高は前年比5%減。ティモ・フーヘス理事長によれば、4,500人の従業員のうち200ポストの削減、花束の支給などの従業員特典(フリンジ・ベネフィットの一種か)の廃止といった、協同組合らしからぬ厳しい措置に踏み切らなければならなかったという。まあこうした対応のおかげで業容も持ち直したそうなので、言ってみれば、ドライな決定ができるだけ組織がしっかりしていたということだろうか。
次に、5日後の同じ紙面に紹介されたロッテルダムの石油精製基地について(Rotterdam, plaque tournante du pétrole en Europe. Le Figaro, 2010.8.25, p.21.)。ロッテルダムは言うまでもなく海運の一大センターとして名高いが、なかでも石油製品はこの地の影響力が大きい分野の一つ。毎年、ガソリン、軽油、ナフサ、ケロシンといった製品が、合計約1億トンもこの港を経由してヨーロッパ、ひいては世界各地に運ばれていく。ロッテルダムを中心に、北はアムステルダム、南はアントワープに至る地域で、毎年6,000万トンの石油が精製されており、フランス石油産業連盟のジャン−ルイ・シランスキー氏はこの都市を「北部ヨーロッパにおける石油産業の肺」の役割を果たしていると形容している。
シランスキー氏によれば、大雑把に見るとヨーロッパはアメリカに対してガソリンを輸出し、逆にアメリカから軽油を輸入するという関係にあって、ロッテルダムはその結節点としての役割を果たしているとのこと。そして、原油価格がロンドン、ニューヨーク、あるいはドバイといった市場で決定するのと対照的に、ロッテルダムは実質的に各種石油製品の価格の決定力を持っていると説明する。さらに近年は液化天然ガスの取引量も拡大しており、設備面でもそれに特化した港湾施設の整備が行われている。
ロッテルダムの港湾、物流基地としての優位性は、当然のことながら、地理的な要因に依拠する部分が大きい。ヨーロッパのちょうど中心部に位置し、歴史的に工業生産及び消費の盛んな地域に近く、北海にひらけているとともにライン川の水運を活用できる立地。巨大船舶がフルに稼働できるための長年の港湾インフラ整備。それに加えて、石油化学工業の一大拠点として広い土地を確保し、施設を集積してきた結果が現在の姿に結びついているのだと言えるだろう。
花卉にせよ石油化学にせよ、オランダが世界の物流の基地たることをある意味で「国是」とし、それで国を成り立たせていることがよくわかる。改めて考えると、『ル・フィガロ』紙の記事自体も、そういうオランダの経済のあり方を浮き彫りにする目的で、続けて掲載されたのかもしれない。