ブルターニュ大公城、人気の秘密は?

パリの西南西約300キロ、ロワール川が大西洋に注ぐ河口近くに開けた都市、ナント。この街の代表的観光地であるブルターニュ大公城は、『地球の歩き方 フランス』でも詳しく紹介され、「訪れる価値あり」の見所になっているので、すでにお出かけになった方もいるかもしれない。15世紀以来の歴史を誇るこの古城、フランス観光開発機構(アトゥー・フランス)が調査した昨年の「全国人気観光スポット・ベスト20」にランクインし、フランス全体で見ても代表的な観光地の一つとしての地位を確立しつつある。8月17日付『ル・パリジャン』紙は、近年になってさらに集客を増やしたブルターニュ大公城の人気の背景を解説している(Ce château est pris d’assaut. Le Parisien, 2010.8.17, p.26.)。
この城の大きな転機となったのは、4年前に完成した大改装工事。約10年の歳月と5,100万ユーロの経費をかけ、計60社がこの工事に携わったという。石組み、木組み、屋根の構造なども徹底的に修復、改装され、500年前の美を21世紀に蘇らせるためにできる限りの努力がなされた。
大公城が賑わう一つの要因になっているのは、中庭と城壁までの入場が無料であること。博物館がある城の内部に入るには5ユーロかかるが、一種の公園のような感覚で散歩したり歴史に浸ったりするという目的なら、建物の外でも充分満足できるのではないか。城内の博物館長を務めるマリ−エレーヌ・ジョリー氏は、「この点(中庭と城壁に自由に入れること)が他の城と非常に違うところです。ナントの住民たちは、家族や友達を気軽にこの城に連れてくることができます」と、来訪者を増やす効果を持つ敷居の低さを強調。50年近くこの街に住んでいるモニクという女性も、「このあたりに来るととても楽しく過ごすことができます。今日は(城にある)本屋さんに立ち寄りましたし、何日か前は友達と城内の展覧会を見ました」と楽しげに語っている。
この城が完成を見た時のブルターニュ公国の君主、アンヌ・ドゥ・ブルターニュは、同国最後の君主であり、その後2代にわたるフランス王妃にもなるという、激動の歴史の只中を生きた女性。この城は、そんなアンヌ、そしてナント市やブルターニュの歴史を、建物を通じて、また博物館の多くの展示物を通じて思い起こさせる場でもある。今回の改装では、展示を中心にマルチメディアの導入が徹底して図られ、人々がよりヴィヴィッドに歴史を追体験できるようになった。地理的にブルターニュ半島の入口に当たるため、多くの外国人観光客もブルターニュ旅行の出発地としてまずナントに立ち寄る。そんな旅行者をもてなす場としても、ブルターニュ大公城は大きな役割を担っている。
博物館ではちょうど今、中国に関する特別展示(11月7日まで)を開催しており、これを目当ての来場者も多いと言われる。時節はちょうどヨーロッパの美しさが映える秋。駅からも至近距離にあるというのもこの城の特筆点で、ナント自体を訪れる人だけでなく、列車の行程でたまたまナントを通るという人も、ぜひ途中下車してふらりと(ただで!)城めぐりの散歩をしてみるのがよさそうだ。