ボルドー産ワインに抜本的な改革計画

ワインの産地として不動の地位を誇るボルドー。5万人がワイン関連の仕事をしているということで、地域の基幹産業の一つでもある。日本から漠然と見ている限り、そのステイタスや生産基盤は万全であるように想像されるが、実のところ内情はそんなに単純なものではないらしい。8月25日付の経済紙『レゼコー』では、現状を問題含みととらえ、改革の機運を盛り上げようとするボルドー地方の動きについて紹介している(Les vins de Bordeaux veulent retrouver leur part de marché. Les Echos, 2010.8.25, p.12.)。
昨年実施した大規模な調査に基づき、ボルドーワイン委員会(CIVB)が最近結果を発表した報告書兼提言書によると、デパートやスーパーなど大規模小売店でのボルドー産ワインの市場占拠率は、2001年に28%であったのに対し、2009年には25%に漸減している。また、輸出市場においてもボルドーワインの退潮傾向が同様に見られるという。CIVBではこうした動向の原因をまず、品質管理やトレーサビリティ、製品計画、PRなどの諸側面においてボルドーが必ずしも適切な対応を取っていないからと規定する。
とりわけ問題にされているのが、一部のネゴシアン(生産業者からワインを買い付け、ブレンド醸造等を行う業者)による原価割れなど極端な低価格での取引。ネゴシアンが全て悪いわけではもちろんなく、反対にボルドーワインのクオリティは良心的かつ技術に優れたネゴシアンの努力によるところも大きいのだが、ダンピング的商売を展開する輩も少なくなく、そうした振る舞いが産地の評判を落としかねない状況にあるのだという。CIVBは、AOCボルドーの呼称を得ているワインの71%を占めるネゴシアンブランドの精査と再構築を目標の一つに掲げる。また、スペインのリオハワインなどの事例を参考にしつつ、消費者にとって中味や質がわかりやすいワインになるよう心掛けるとしている。
CIVBは今回の提言で、ボルドー産のワインを大きく3種に区分する。まず1ビン当たり2ユーロ以下という低価格ワイン、次に2ユーロから20ユーロの範囲に収まる普通のワイン、最後に20ユーロ以上の高級ワイン。生産量ではわずか3%しかないものの、売上げ額では16%に達する高級銘柄については(おそらく日本を含めた輸出など、市場が確立しているからであろう)特に改革は不要として、一番問題なのは(価格に見合った質しかない)低価格ワインであるとされる。CIVBでは、この種のワインはもはやボルドーアイデンティティにふさわしくないということで、できる限り生産規模を縮小していくべきとの見解。そしてその他のワインも、上述のように品質等の管理を行き届かせることで底上げを図り、現在35億ユーロの売上高を5年強で45億ユーロまでもっていきたい(約30%増)という野心的な目標を提示している。
日本まで輸出されてくるボルドー産ワインは、やはり上で言う第3カテゴリーに入る高級なものが多いのだろうが、フランスの食卓で通常飲まれているのは、いわばデイリーワインといった第2カテゴリーのもの。2ユーロ以下のビンはいわゆる安酒であり、今どき流行らないだろうという判断はまあ理解できる。今後日常使いのボルドーワインが一層おいしくなれば、フランス国内の、そして世界のワイン愛好家にとっても大きな喜びとなるに違いない。

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祝日の午後、東京西郊の小平で清水和音氏のショパンを聞く。桐朋学園高校卒業後ジュネーブ音楽院に留学、現在は中堅どころといった感じで国内外で活躍する清水氏。派手さはなく、あくまでも穏やかな表情の演奏でありながら厚味のある音色が印象的に思われる。ショパン全曲録音のCDが順次発売中とのことなので、今度大人買いしてみようかな。