高校生がグランゼコールで夏期講習!

フランス教育制度の頂点に立ち、長年エリート養成に貢献してきたグランゼコールも、近頃はその特権性をめぐる改革の波にさらされていると言われる。文化資産の高い家庭環境に育った者たちがグランゼコールを経て出世を果たし、その子どもも高い文化資産を家庭内で享受するという再生産構造。これとは逆に、恵まれない境遇にある親のもとで育てられた子どもは、学歴も低いままにとどまり、結果的に社会階級の階梯を上がることが難しい。こうした状況を少しでも変えていこうというのが、改革の方向性の一つであると言えるだろう。アメリカで言う「アファーマティブ・アクション」に近い試みを実施している学校もあるが、取組みはグランゼコールごとにさまざま。8月24日付『ル・フィガロ』紙は、高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリユール、ENS)でこの夏から始まった新しい改革プログラムについて紹介している(Des normaliens à l’aide des lycéens défavorisés. Le Figaro, 2010.8.24, p.8.)。
ENSでの改革の動きは、2006年に始まった学生たちのボランティア活動にさかのぼる。彼らは、パリ郊外等のZEP(優先教育ゾーン、社会経済的に恵まれない状況に置かれた人々(移民などが多い)が集中して居住する地区)にある高校に通う生徒に対して、自主的にチュートリアルを開始し、多くの生徒をバカロレア合格、大学等の高等教育機関進学などに導いてきた。現在ではこの活動はENS当局の公認となり、「学業と大学進学の平等性に向けたプログラム」の名の下、ENSとパートナーシップ協定を結んでいる高校に通う生徒たちを対象として、積極的に展開されてきている。
今年実施される新機軸は、チュートリアルの対象となる生徒(高校普通科の2年生)220人に、夏季の1週間、パリはパンテオンの南にあるENSの本校舎で学ぶ機会を与えるというもの。期間中、朝8時から午後4時までは授業を受け、その後7時までは補習の時間、そしてそのままENSの寄宿舎に宿泊という、学生気分満喫の日々を過ごすことができる。そして秋以降もそのまま、提携高校で毎衆土曜日に3時間、6人クラスでのチュートリアルが続くことになっている。生物学専攻のENS学生、グウェネル・ルードー君は、「生徒たちには僕らから、(知識というより考え方などの)方法論について学ぶことができます。また、僕らが彼らと同じ年齢のときに持っていた(進学等に関する)情報を伝えることも可能です。ENSの強みは、あらゆる分野を専攻している者がいることだと思っています」と、今回のプログラムへの意気込みを語る。
さらに、今回学生たちが意を用いているのは、こうしたチューター活動の有効性について科学的に評価すること。このボランティア開始時メンバーの1人であるティエリ・リー君は、「我々は(活動が)生徒たちに対して、また生徒が通う高校に対してもよい影響をもたらしているということを確認しつつ、取組みを進める必要があります。もし悪い影響があるとしたら、そのことについても知っておく必要があるのです」と説明する。学校当局の公認を受けていることもあり、ボランティアをただやりっ放しという段階から、その成果を考えてみる段階に、プログラムが進化しつつあることが現れているのだろう。
この夏、ENS校舎で学ぶことができるラッキーな生徒の1人に選ばれたジェニファーはコンゴ出身(おそらく2世か3世)。ジャーナリストになるのが目標で、「この機会は、上を目指すための勇気を私たちにくれると思います」と夢を語る。もちろん現実は厳しく、頑張って将来グランゼコールに入学したいと思っても容易でないのは当然だろうが、まずは夢を持つこと、その意味で夏の1週間が一人ひとりの生徒たちに与えるものはきっと大きいに違いない。