ビールとチーズの里、シメイ探訪

多種多様なベルギービールのラインナップが日本でも専門店などで知られるようになるにつれ、比較的アルコール度数が高く濃厚な味わいのシメイ・トラピストビールを見かけることも多くなった。しかし、『地球の歩き方』などの記述を見ても、ビール産地として以外のことはあまり知られていないようだ。10月31日付ベルギー『ノール・エクレール』紙は、近場の観光スポットといった趣で、シメイの歴史や地理について紹介している(A la trappe de Chimay. Nord Eclair, 2010.10.31, p.35.)。
ブリュッセルの南約100キロ、「エノー州の長靴」と呼ばれる地帯(州の形状からそう呼ばれる)にあり、フランス国境にも程近いシメイ。その中心には西暦1000年前後からの歴史を誇る(1935年の火災とその後の修復を経ているが)シメイ城があり、シメイ・ビールの産地として知られる修道院は、街の中心からさらに8キロ南郊のスクールモンに位置している。
スクールモンの修道院の歴史は1850年からで、城に比べれば比較的新しい存在。フランドル地域のヴェストフレテレンから、シトー修道会のトラピスト修道僧17名が当地に派遣され、建物造りだけでなく、食糧として必要な様々な作物の栽培にも従事した。加えて、「健康によい飲物」として醸造されたのがビール。当時は修道院内で消費されるものの一種類に過ぎなかったが、20世紀も後半になってその質を評価する声がベルギー国内からヨーロッパ全土へと広がり、それにつれて生産量も急激に増大した。現在では、トラピストビールの名称を公式に冠することができる7種のビールのうちの1つとして、世界的な名声を勝ち得るに至ったことは御存知の通りだろう。
もう一つ、こちらは日本ではあまり知られていないように思うけれど、スクールモン修道院での特産として名高いのがチーズ。1876年から院内の乳製品加工場で牛乳、バター、チーズ作りが始まり、その中でセミハードタイプのチーズが特に評判となって、今ではビールと共にシメイの二大名産物として知られるようになったとのこと。毎年秋(今年は10月30日から11月1日まで)にはチーズ祭りが近くの村で開催され、スクールモンからだけでなく、ベルギー国内の25のチーズ生産者が一堂に会して賑わうのだという。
秋のベルギーと言えば天候に恵まれない日も多く、また11月ともなれば寒さも増してくる頃だが、たまの晴れ間にブリュッセルあたりから、あるいはフランス北部などからもシメイを訪れ、落葉を踏みしめつつ歩いてみるのが楽しそう。何よりもお土産に期待できるのが嬉しい。