レストランにもあるフラマンとワロンの地域格差

何となくこのブログ、「アクチュアリテ・文化にふれる」とか言っておきながら飲食関係の話題ばかり多い(2回に1回?)ような気もするが、どうしても興味のあることに話題が向いてしまうので(!)乞御容赦。今日も今日とてレストランの話題。フラマン地域とワロン地域の対立がいよいよ深刻化しているベルギーでは、ミシュランなどのレストランガイドについても、フラマン地域の方が高い評価を得ているといったやっかみめいた見方が、ワロン側から出ているようだ。11月24日付『ル・ソワール』紙ではこの点をめぐって二人の識者にそれぞれの見解を尋ねている(La gastronomie étoilée davantage flamande? Le Soir, 2010.11.24, p.15.)。
インタビューされているのは、ミシュランと並ぶグルメガイドブックであるゴー・ミヨーのベルギー版編集長であるフィリップ・ランブール氏と、高級レストラン「ル・グラン・リュー」のシェフで、ラジオにもコーナー出演しているアラン・ボシュマン氏。『ル・ソワール』紙は「論争」という触れ込みでこの記事を展開しようとしているが、書かれている内容を見る限り、実際のところは両者の意見がそれほど大きく食い違っているわけではないようだ。
フラマン地域にグルメガイド高評価の店が多い理由として、二人が共に指摘しているのは、地域経済の力の格差。ご承知のように、鉄鋼業や石炭生産の衰退が進んでいるワロン地域と、石油化学産業や各種サービス業などが発展中のフラマン地域との経済格差は大きく、それが両地域の対立の背景もなしているわけだが、美食、おいしいレストランということに関しても、どうしても経済が活性化していて市民の消費意欲も高いフラマン地域に、(多少なりとも)偏りが生じるということらしい。ランブール氏は「フラマン側には(メニューにおける)秀でた繊細さというものに対する客の側の欲求と、それに応えるレストランの意志があるようです」と語り、一方で「ワロン地域では店の雰囲気の良さが重視される傾向があります」と説明する。ボシュマン氏は「80年代の末には、ほとんどの優れたレストランがブリュッセルに集中していたのですが、その後フランドル方面への移動現象が起き、今ではブルージュアントワープがそうした店の所在地になっています」と言い、その理由を「需要のなせるもの」とするのである。
二人それぞれに独自の見解ももちろんあって、例えばランブール氏は、フラマン対ワロンの人口比がラフにみて60対40であることから、ガイド本(ミシュランにせよゴー・ミヨーにせよ)に挙がるレストラン数もだいたい同じ比率になっているのではと指摘する。対するボシュマン氏の意見はなかなかユニーク。グルメガイドは販売冊数を増やすのが至上命題で、今はフラマン寄りのセレクトになってはいても、いつまでも同じでは売れなくなるから、いずれ方向転換して、ワロン地域にもっと光を当てるのではないかと大胆予測(あるいは希望的観測)を披露している。
地域間不平等を問題にする以前に、そもそもベルギーでは、そのレベルの高さの割に星付きレストランの数がフランス、ドイツ、オランダに比べて相対的に少ない、それは経済的な理由によるもの(どうせそれほど本が売れないなら星も控えめに、ということか)だとは思うが、やはりいかがなものか、というボシュマン氏の論評も興味深い。彼の視点から類推すると、日本(東京と関西)のミシュランが世界一多くの星付き店を「輩出」している理由にもなにがしか触れてきそうな気もするが、さてどんなものだろうか。