グラン・パレ、モネ展の終夜営業実施へ

博物館や美術館というとこれまでは、夕方も早い時間までしか開館しておらず、勤め人は日曜日か祝日に長蛇の列を覚悟して見に行くしかないというイメージがあった。最近は都心のミュージアムなど夜遅くまで開館しているところも増え、だいぶイメージも変化しているが、さすが美術大国のフランスはこの面でもやることのスケールが違う。11月21、22日付『ル・モンド』紙は、現在グラン・パレで開催中の「モネ展」の、オールナイト開館実施予定について伝えている(Les trois folles nuits de ≪Monet 1840-1926≫ au Grand Palais. Le Monde, 2010.11.21-22, p.19.)。
クロード・モネの特別展、今ちょうど渋谷の東急文化村でも「モネとジヴェルニーの画家たち」が開かれており、印象派の代表的画家としての人気ぶりを感じさせるが、オルセー美術館とフランス国立美術館連合(RMN)共催によるグラン・パレでの展示は、大回顧展としての性格を持つ壮大なもの。御当地であるフランスでも圧倒的な注目を集め、9月22日の開幕以来、1日平均7,000人の観客を動員している。この展覧会では、観覧日時を予め指定した予約鑑賞券を持参している者を優先的に入場させ、予約券がない来館者は会場に余裕ができるまで待ってもらうという方式を取っているが、11月9日には展示会が閉幕する1月24日までの全ての予約が埋まってしまった。会期末まで2か月を残して予約分完売、あとはひたすら列を作り、長い時には3時間ほども入場を待たなければならないということで、特に外国人観光客の中にはいらいらしたあげく警備員に食ってかかる者も出るようになったという。
作品の多くは世界中の美術館から期間限定で借りたもので、予定より期間を延長することは不可能。かと言って、今以上に観客を詰め込むことも、1994年以降強化された安全基準によって禁止されている。しかもモネの場合、連作を一望のもとに鑑賞することに研究上の重要な意義もあり、観覧環境には普段よりも一層余裕を持たせなければならない。そんなこんなで11月19日になってグラン・パレが決断したのは、展示会終了直前の週末(金曜日から日曜日までの3日間)は会場を常時開館し、夜間の鑑賞を可能とするというプランだった。
実はこうした終夜開館の試みは初めてというわけではない。一昨年、同じグラン・パレで開催された「ピカソと巨匠たち」展でも、来場者数が余りにも多かったため、今回と同じ規模のオールナイト観覧を実施した。その時の経験によれば、夜10時から午前1時までの時間帯からまず予約が入り、次に朝方、そしてしまいには真夜中の観覧予約もいっぱいになったとのこと。さらに予約なしの観客が夜中じゅう列を作り、入館を長時間待ち続けたという。ピカソ展ではこの全日開館期間である4日間に合計7万人を動員。そのうち3万人がいわゆる夜間帯の来館だった。モネ展についてもこれとほぼ同様の展開、そして観覧者数が予想されている。
RMN会長のトマ・グルノン氏は、「ピカソ展をやって分かったことの一つは、夜間開館が普段あまり美術館に足を運ばない人々、若者たちなどにとって来館のよい機会になったということです」と、ちょっと意外な視点を披露する。そして、「夜間来場者の満足度は95%でした」とも。パリの街中にはもともと24時間営業のカフェやレストランも多く、ナイトバスも終夜運行している。カフェでゆっくりと真夜中の訪れを待った後、午前2時頃から名だたる名作揃いの展覧会をじっくりと鑑賞するというのも、眠気との戦いになるかもしれないが、憧れのパリ生活、その充実した一日とでも想像してみれば、何となくうらやましくなってくる。