並木道、伐採しつつ管理する

日本でもヨーロッパでも、道を行き交う人々の心をそれとなく和ませてくれるのが並木の存在。ついこの間の東京を振り返れば、桜並木が続く通りを車で走ったり、自転車で通り抜けたりする時の気分は、春の訪れをいっぱいに感じさせる、年に一度の喜びに満ちたものだと改めて思う。もちろん、木はただ生やしておけばよいのではなく、主として道路を管理する人々による手入れがあってこそ、あれだけの花をつけ、茂りを作ることができるもの。さらにあくまで生き物であるから、無限の生命を保てるわけはなく、遅かれ早かれ寿命の到来は避けられない。4月28日付のベルギー『ラ・キャピタル』紙は、事故を防ぐことを主な目的として、ブリュッセル首都圏地域で管理する道路沿いの並木が、年に1,000本ほど伐採される状況について詳しくレポートしている(Mille arbres à abattre le long de nos routes. La Capitale, 2011.4.28, pp.4-5.)。
木の寿命は種によってかなり異なる。ブリュッセル環境管理センター(IBGE)勤務の「ミスター樹木」ことセルジュ・ケンプネール氏によれば、樫の木などは400年を超えるものも珍しくはないが、ブナの木では200年ぐらい、またブリュッセル市内に数の多いマロニエの木になると、100年以上だとかなりの老木ということのようだ。つまり相応の年数が経つと、木々はどうしても傷んでくる傾向にあるというわけ。
ブリュッセル市内の並木の傷み具合を測定する際には、単純な老化以外にもいろいろな要素を考慮しなければならない。ケンプネール氏がみる要因の第一は、交通往来によって木に与えられる衝撃。事故で車がぶつかったとか、駐車する際に木に接触するという類のほかに、ほぼ常時小刻みに伝わってくる振動(特にバス、トラムやトラックなどがもたらす揺れは大きい)が木には重大なダメージになる。その他、幹などに巣食う寄生物、さらにもちろん排気ガスに代表される汚れた空気などが、とりわけ道路沿いの木々には大きな影響を及ぼすことになる。
IBGEが毎年実施している検査に基づき、今年切り倒しを余儀なくされる樹木は、首都圏地域管理道路沿いで約1,000本弱。市南部、ウックル地区のウィンストン・チャーチル通り、中心街から空港に向かう主要路であるレオポルド3世大通りなど10の道が対象となり、ブリュッセル首都圏地域交通局が実際の伐採に携わる。交通局広報担当のインゲ・ペーメン氏は、「木を切るという話は、いつでも一般にすんなり受け入れてもらえるという種類のものではないのですが、それが(問題を解決する)唯一の方法なのです。(木が折れるなどして)通行者に被害が生じた場合、当方の責任になります。それに住民の側から、並木が危険な状態になっているといった通報を受けることも少なくないのです」と実情を説明。また、「(1,000本といっても)我々が管理している並木の総数2万8,000本に比べれば、かなり少ない方なのです」と大方の理解を求める。
現在、並木の75%は、多い順にプラタナス、ボダイジュ、カエデ、マロニエという4つの種で占められているが、一つの種が多数を占めると病気に弱いということが分かってきており、伐採によりこれらを置き換える際には、今までより多様な種類の木々が植えられるようになっている。
ペーメン氏が語る樹木倒壊による被害は、決して単なる想定レベルのものではない。2001年7月には、南郊のテルヴューレンで、折からの嵐の影響もあって倒れた並木が通行中だった車を直撃し、死者を出すという事故が起きている。その後も、木が倒れたり大きな枝が落ちたりすることで、住宅の損壊、通行人のケガなどを引き起こす事件が時々見られるのが実情で、やはり危険な樹木を予防的に伐採する必要はあるのだろう。もっともケンプネール氏の見立てでは、公園等も含めた市内の樹木の健康状態は、数年前に比べて良くなってきているとのこと。排気ガス規制等に基づくのか気候によるのか、理由ははっきりしないが、エコの観点からすれば悪くない現象と言えそうだ。