リストのオルガン曲を味わう

バッハ以前から現代音楽まで、オルガン曲は色々それなりに聴いてきたつもりだったが、フランツ・リストのものというとちょっと記憶にない。しかし、「ピアノの魔術師」として知られるリストは、確かにオルガン向けの作品も残しており、そのうちのいくつかはそれなりの大作であるという。5月16日付ベルギー『ル・ソワール』紙は、ブリュッセルでのリサイタルを控えたオルガニストオリヴィエ・ラトリー氏に、リストのオルガン曲の持つ魅力についてインタビューしている(A la découverte de Liszt organiste. Le Soir, 2011.5.16, p.35.)。
1985年以来パリ・ノートルダム大聖堂オルガニストを務め、メシアンのオルガン作品の演奏に顕著な業績を残していると言われるラトリー氏。彼にとって、リストのオルガン曲、特に「バッハの名による前奏曲とフーガ」、「バッハのカンタータ『泣き、嘆き、憂い、おののき』による変奏曲」「コラール『アド・ノス、アド・サルタレム・ウンダム』による幻想曲とフーガ」の3作品(いずれも今回ブリュッセルで演奏される)は、それまでのこの楽器に関する作曲法を一変させたもの、現代音楽まで続いている諸作曲家のオルガン作品に向けての転換点となった、オルガン史上の画期をなす傑作として位置づけられるべきものである。
ラトリー氏によれば、リストのオルガン作品は、比類なき独創性に基づくロマンティックな性格を持った作曲法によるものであり、またリスト自身のピアノ演奏の技術をオルガンに適用させつつ、オルガンに新たな地平を切り開いたものと評価されている(楽器の歴史からすればパイプオルガンはいわゆるピアノに先行するものだろうが、リストの場合、演奏技術の適用関係が逆転しているところが興味深い)。そしてもちろん結果として、フランクやその後の20世紀の作曲家(デュプレからメシアンまで)に、その独創性及び技巧の両面で多大な影響を及ぼした。「アド・ノス」の中には美しいフレーズのアダージョがあるのだが、ラトリー氏はこの部分から、オペラのワンシーン、一つの類まれなる「愛の唄」といったものまでを想起するのだと説明している。
今回のリサイタルは、ブリュッセル中央駅近くのサン・ミシェル大聖堂のオルガンを使って開催されるが、リストの作品を演奏するのに理想的なオルガンはあるかという記者の問いに、ラトリー氏は「そういうものがあるとは思いません」と答えている。「偉大な作品というのは、特定の楽器に依存するのではなく、あらゆる楽器に適応するものなのです」。なるほど。日本でもいつの日か、どこかのオルガンで生演奏を聴く機会もあるだろう。それまではとりあえず、CDでも探してみることにしようか。