ワロン地域の工業活性化進む、されど

7月3日の当ブログでベルギーの雇用情勢について扱った際、同国内の工業投資は案外活発で、必ずしも工業全般が下り坂という状況にはないという説明をしたので、今回はその続きの報告ということになるかもしれない。一般的に、ベルギー国内での鉱工業の趨勢としては、ここ数十年来、フランドル地域が比較的活発な展開を見せているのに対し、ワロン地域では歴史的に主要産業であった石炭産出や鉄鋼業が頭打ちになることで、沈滞色が濃いと言われてきた(参考:栗原福也監修『読んで旅する世界の歴史と文化 オランダ・ベルギー』(新潮社、1995)、78〜79ページ)。しかし、6月16日付『ル・ソワール』紙の記事によれば、90年代後半以降、産業政策の成果などもあり、ワロン地域の工業は再活性化の方向性を示しているのだという(La Wallonie se reindustrialize. Le Soir, 2011.6.16, p.24.)。
ワロン企業連合(UWE)が最近発表した「企業状況に関する調査」によれば、同地域圏の工業は1995年あたりまでにそれ以前の衰退傾向を脱却し、その後徐々にではあるにせよ新たな成長が続いている。2009年の経済危機の悪影響は他の地域と同様だったが、すぐに立ち直りを見せ、工業製品の輸出額は2009年以降現在までに15%増となっている。また、研究開発投資の66.6%が第二次産業に関して実施されており、特にその対象が再生可能エネルギー、薬品、繊維新素材やバイオテクノロジーといった有望な分野に集中していることは将来に向けての好材料。さらに、2005年から展開されている「ワロン地域マーシャルプラン」という工業振興政策(第二次大戦後のアメリカによる「マーシャルプラン」とは無関係)も、一定の成果を生んでいると言われる。
他方、最近の動向に潜む問題点もいくつか指摘できなくもない。工業部門従業員1人当たりの付加価値額はドイツ、フランス、オランダなどを上回る数値になっているが、住民1人当たりで見ると、その付加価値額は近隣諸国ではフランスの次に低い値になってしまう。このことは、工業部門の労働者が1980年には全体の24%だったのが、2009年には13,7%まで低下し、工業の分野で雇用が非常に少なくなっているという状況と軌を一にするものであろう。UWEのディディエ・パコ経済部長の説明によれば、これは製造企業が社内のサービス部門を外部化していることによるのだそうだが、ワロン地域としての雇用の安定性という観点からは懸念の残る状況である。また、地域内で第二次産業を営む企業数は5,460社と、会社全体の7.7%に過ぎず、またその中で、200人以上の従業員を有する大企業は99社しかない(つまり中小企業が圧倒的に多い)というのも、同じく雇用の面で不安を抱かせる要素であり、社会政策の観点から工業に多くを期待できないことを明確にしているように思われる。
今回の調査の結果と今後の展望について、UWEのヴァンサン・ロイテル理事長は、今後展開されるマーシャルプランの第2弾「グリーンプラン」に期待するとしながらも、産業クラスター政策の改善や、ヨーロッパ規模で進んでいる産業再生の動きへの一層の参加など、なお多様な努力が必要だとの見解を示す。それはその通りだろうし、ワロン地域の産業の「活性化」に向けた展望は充分にあるだろう。しかし上記のように、工業の発展が雇用の促進につながらない、つまり工業が労働集約的なものでなく、完全に資本集約的なものにシフトしているという状況には、今後も大きな変化が見られない可能性が高い。産業の発展が一人歩きする中で、雇用の不安定が社会不安をより昂じさせるという未来も、高い確率で予想されるのではないだろうか。