旅行ガイド、2大シリーズが頂上対決中

フランスのバックパッカー向け旅行ガイドである「ルータール」については、以前(2009年11月14日付)の当ブログでも触れたことがある。1973年に最初の号が発行され、現在ではほぼ世界各地をカバーするこのガイドブック、フランス国内で第1位のシェアを誇っているのは事実。しかし、同じ1973年にオーストラリアで創刊され、似たような購読者層をターゲットとする「ロンリープラネット」(LP)というガイドブックが、英語だけでなくフランス語を含む14か国語で刊行されていて、最近ではフランスでもルータールに対抗する存在となってきている。7月5日付のベルギー『ル・ソワール』紙は、ルータールが圧倒的な地位を確保できなくなっているフランス語圏での旅行ガイド販売競争の事情、またその背景や今後の展開について検討している(Routard contre Lonely Planet. Le Soir, 2011.7.5, p.30.)。
現在、旅行ガイドのフランス国内での年間販売部数は、ルータールの200万部に対し、LPは70万部。しかし世界に視野を広げてみれば、ルータールは220万部に留まり(つまり仏以外では20万部しか売れてない)、700万部のLPに及ぶべくもない。自国では一応安泰なのかもしれないが、中長期的にはこれで本当に大丈夫なのだろうか?
35歳の旅行愛好家であるティボー君はフランス人だが、もっぱらLPシリーズを愛用している。最初にLPを手にして旅をしたのがきっかけでその編集スタイルに馴染み、以後も使い続けているという。彼によればLPは地図が分かりやすいのが大きな強みだとか。ネパールで海賊版(コピーを製本したもの)が5ドルで売られていたり、どこの国に行っても次の目的地のLPを手に入れることができる(店で買ったり、他の旅行者と交換)というのが実態としてあって(これらは出版社の儲けに全然ならないが)、LPシリーズの席巻ぶりを物語っていると言える。
一方、ルータールは記者に対してあくまで強気の姿勢を崩さない。「(フランス人と)英米の人たちとは旅行の仕方が違うので、我々はフランスらしさを残すように努めています。例えば、チェーン展開しているホテルやレストランは掲載しません。LPはある町で食事をする場所がファストフードの店だけならその店を紹介するでしょうが、我々は他の町に行くよう勧めることにしています」と語るのは、ルータールの親会社アシェット社の旅行ガイド担当ディレクターであるナタリー・プジョ氏。「ここ5年間でルータールの売上高が10%低下したというのは事実ではありません。約140タイトルという固定したラインナップにもかかわらず、我々は相対的に高い成長率を維持しているのです」と、ブランドとしての健全さを強調している。
ちなみに公平を期するため書いておけば、ティボー君も「フランス国内やヨーロッパについては、ルータールの方が良くできています」と認めている。オーストラリア人やアメリカ人の目線を重視して書かれたLPより、ルータールの方が地域内のディテールをよく捉えているのはまあ当然だろう。こうした評判もあってか、プジョ氏は今後、フランス国内だけでなくイタリア、スペイン、オランダでの販売展開に期待しているようだが、そもそもフランス語の本がこれらの国でどれだけ売れるのか、はっきり言って未知数。
なお、LPでは日本語版も出版されているけれど、刊行元が変更になったり(マガジンハウスからメディアファクトリーへ)、現在の版元でもシリーズ続刊が途切れたりしていて、必ずしも順調に推移しているようには見えない。やはりガリバー「地球の歩き方」が盤石の構えか。それこそ日本人のメンタリティに即応する同シリーズの編集方針に、少なくとも国内において当面向かうところ敵はないのかもしれない。