エアフラKLM、新たな経営方針のオモテとウラ

2004年にエールフランスとKLMオランダ航空が共同経営を開始してから、既に7年が経過した。同じヨーロッパのナショナルフラッグとはいえ、カラーが似ているとは言いきれない2社が統合してどうなるのかと思っていたが、さしあたりスケールメリットを活かして、営業収益や市場占拠率では特にヨーロッパ、場合によっては世界でもナンバーワンクラスの航空会社として地位を得ているようだ。厳しさが増すことはあっても市場環境が緩むことはないと想定される世界の民間航空業界。7月4日付経済紙『レゼコー』は、一段の競争力を要請される中で、同社(以下、エアフラKLM社)の経営陣がどのような新たな経営方針を採ろうとしているか、その概要と「背景」を示している(Air France - KLM: nouvelle gouvernance pour le second mandat de Pierre - Henri Gourgeon. Les Echos, 2011.7.4, p.24.)。
エアフラKLM社では、7月7日に株主総会がカルーセル・デュ・ルーヴルのホールで開催され、またその後には取締役会も実施。そしてこれらの場で、4年間社長職を務めてきたピエール−アンリ・グルジョン氏の続投が正式に決まり、同社経営陣は新体制での一歩を踏み出す。
今後の同社経営の主要な課題は、共同経営グループとしてのエアフラKLMの組織再編となる。既にグルジョン氏は、『レゼコー』紙のインタビューに対し、「構想はまだ骨子の段階で、今後数か月は作業を続けていかなければなりませんが、今年末か来年のはじめぐらいまでにはとりまとめたいと思っています」と行程を明示している。ポイントは組織再編による業務の効率化。「現在の組織形態だと、KLMとの経営統合には難しいものがあります。エールフランスとKLMは未だに別々のシステムで運営されているため、時間のムダが大きく、効率性が損なわれています。グループレベルで総務各部門を統合し、エールフランスでもKLMでもない、中立的な部門責任者を置かなければなりません」。財務部門、システム部門、収益マネジメント部門、連携・対外戦略部門、企業広報部門及び調達部門等をこれらのカテゴリーに含めることが想定されており、またこれらの部署を、現在エアフラKLM社の本部があるロワシー(シャルル・ド・ゴール空港)とは別の場所に置くことで、組織の刷新を空間的にも明らかにする方針が採られるとされる。
上記のような組織再編及び経営統合が検討される背景には、エアフラKLM社が将来的に、イタリアのアリタリア航空を傘下に収める可能性が高いということもある。既に現在、アリタリア株の25%を保有しており、今後買い増し等も大いに予想される状況。グルジョン氏も、現行のようにばらばらのシステムで共同経営を続けるのは、「仮に第3の会社を迎え入れる場合にさらに難しいことになってくる」と、現在提案している改革の動きを促す要因を認めている。
さて、ここまでが表の事情。実はそれらとは別に、人事にまつわる裏事情がどうやら存在するらしい。今後の組織再編の一環として、総務各部門の統合と共に検討されているのが、エールフランスとKLM、それぞれの事業部門における(現在は未配置の)最高責任者の選任。これが実現すると、特にエールフランスの最高責任者に就任する人物は、いずれグループ全体の社長、つまりグルジョン氏の後継者に抜擢されることが容易に予想されるため、今の時点からこの人事に注目が集まり始めているのだ。
既に名前が挙がっているのが、アレクサンドル・ドゥ・ジュニアックという人物。ラガルド前経済・産業・雇用相の下で最近まで官房長を務めた実績を持っている。一方グルジョン氏も、エールフランスに入社する前に政府の公共事業・住宅・運輸・海洋省民間航空局長などを歴任しており、(国策企業のエールフランスとはいえど)いわゆる「天下り経営者」と認知されている。ドゥ・ジュニアック氏が続くことになると2代続けて天下り(グルジョン氏の前に10年ほどエールフランス社長を務めたジャン−シリル・スピネッタ氏を含めれば3代連続)となるため、取締役の一部は既に警戒姿勢を強め、「天下り反対、内部登用を」との態度を表明中といわれる。またこうした状況をうけ、指名委員会も緊張感を持って状況への対応に当たっており、候補者の厳格な審査、理論的には社長の一存で決められる人事を取締役会での投票に委ねる方針などを打ち出している。
グルジョン氏自身はもちろんこの件に関する態度表明を拒否しているけれど、暗闘がどこかで繰り広げられているのは確か。まあ、利用者としては安全、正確、サービスに優れたフライトを続けてくれればよいので、妙な内部紛争のとばっちりをサービスの悪化に転嫁するのだけは避けてもらいたいと切に願う。