道路整備反対の市民運動を有名作家が支援

以前このブログで、ブリュッセルの並木について定期的な調査が行われ、傷みがひどい木は植え替えることで倒壊等の事故防止が図られているというレポートを伝えた(5月26日付)。これは環境管理センターが判断して、必要最小限の植え替えを行うために伐採を実施するものであり、大方の世論の支持を得ている事業と言えよう。一方、道路整備を目的とする大規模な樹木伐採となると、上記の事業とはレベルも内容も全く異なり、それだけ市民の目も厳しくなってくる。8月10日付の『ラ・キャピタル』紙は、ブリュッセル中心街からやや北西にあるポール通りの整備・再開発、それに伴うプラタナス並木の一斉伐採計画に対する、市民の反対運動の盛り上がりぶりについて現状を報告している(Jacques Mercier au secours des platanes. La Capitale, 2011.8.10, p.4.)。
ブリュッセル中心市街地の北西側は近年再開発が進み、それに伴ってポール通りでも自動車やトラックが数多く通行するようになってきた。ブリュッセル首都圏地域政府では、都心の交通軸を拡充し、自動車交通の円滑化を目指すという観点から、ポール通りを今よりも交通上便利にするために全面再開発する計画を策定。この計画は2008年10月に認可されたものの、沿道に豊かな茂みを作っている樹齢100年以上のプラタナス約300本を全て伐採するというプランを疑問視する向きが少なからず見られたこともあり、工事の実施は大幅に遅れた。しかし、ブリジット・グルーヴェルス公共事業交通相は、この8月からいよいよ本格始動する旨の意向を強く打ち出した。
並木を守るという観点から道路の整備・再開発計画に反対する近隣住民をはじめとする市民の動きは、今年に入ってから特に活発化し、3月27日には何人かがプラタナスに自分のからだを縛り付けるといったデモンストレーションを敢行。6月からは署名運動が始まり、これまでに6,000人の署名が集まっている。さらに7月14日には、市民代表がジャン−リュク・ファンラース財務予算相を訪問し、並木を守りつつ整備を進める代替計画を提出した。「8月始動」を見据えたこうした運動の台頭を受けて、政府は工事のスタートを9月5日に再延期している。
ここに及んで市民運動側には強力な支援者が登場した。テレビ・ラジオの司会者としても長年活躍している有名作家、ジャック・メルシエ氏。彼は8月初め、自分のブログでこの問題について発言し、当該道路整備は有用とは認められないとして、反対の姿勢をはっきりと打ち出した。「私は子どもたちに、いのちを大事にしなさいといつも教えてきました。プラタナスのいのちは大事にされなければなりません」、「プラタナスは100年の樹齢を数えています。私たちより前から生きていて、私たちよりも後まで生き残っていくべき存在なのです」、「グルーヴェルさんが民主主義というのであれば、彼女は、民主主義とは市民の声を聞くことなのだということを、よく考えるべきだと思います」。そして彼は、著名漫画家であるフィリップ・ゲリュック氏(当ブログ2011年7月2日参照)などを含む多数の知人に連絡して、署名を呼び掛けたいと表明している。近隣地区での問題提起から始まったこの運動は、次第に全市域規模の注目を集めつつある。
こうした動きに対し、エヴリーヌ・ハウテブルック環境エネルギー相は、政府が夏休み明けする8月29日以降、拙速な道路整備実施に反対の立場に身を置いて閣内で発言したいとしている。そして、整備の様式や予算を再検討し、より望ましい形での再開発実施を模索していくとの立場を採る。一方、槍玉に上がっているグルーヴェルス氏は夏季休暇中ということでコメントを寄せていないが、最近になっても「圧力には屈しません。それはブリュッセル首都圏地域(政府)に柔弱というイメージを与えることになります」と発言しており、従来からの姿勢を全く崩していない。こうしたかなり高圧的とも見える姿勢が市民運動側を硬化させ、「民主主義の在り方」議論なども含め、諸々反対の声を強めているように思われる。
今後、既に閣内での見解不統一が明らかになっている中で、8月末から9月にかけて議論と運動の高まりが予想される。工事強行か、撤回か、代替案採用か、それとも再度の水入り(延期)か。しばらく情報を注視していきたいと思う。