強盗による襲撃続く薬局の困難と対処法

日本で比較的安易に盗犯が侵入する場所というと、まずはコンビニエンスストアが挙げられるのではと思う。深夜早朝に比較的スタッフが手薄で、客も少なく、かつレジに現金をある程度抱えている点などが犯罪を誘引する主な要素なのだろう。これがブリュッセルになると、そもそも深夜営業といったものがあまりないため、だいぶ様相が異なるが、狙われやすいのは薬局というのがどうも相場になっているらしい。8月9日付『ラ・キャピタル』紙は、実際に薬局がどの程度被害にあっており、一方でどういった対策が取られているのか、詳しく報告している(Les pharmacies, cibles préférées des voleurs. La Capitale, 2011.8.9, p.6.)。
記事を掲載するに先立ち、『ラ・キャピタル』紙は事実確認のため、ブリュッセル首都圏地域内の薬局に対して個別に電話をし、強盗・盗難被害の有無について調査した。その結果、市内全域、どこでもある程度の被害は起きているものの、地域ごとに件数の大小があることが(調査対象薬局数が少な過ぎるのではという疑問はあるが)ある程度わかってきた。犯罪が最も目立つのは、ブリュッセル北西部(モレンベーク地区、ジェッテ地区など)、そして中心部及び南東部(ウックル地区)。北東部(スヘルベーク地区、サンージョセ地区など)も被害件数は多いとは言え、近年は減少傾向にあるとされる。そして一方、相対的に被害が少ないのが、ブリュッセル南郊、続いて東部(エッテルベーク地区など)、南西部(アンデルレヒト地区、サンージル地区など)となっている。こうした分布が生じた理由については明確ではないが、あるいは住民構成などが関係しているのかもしれない。
実際に侵入された薬局の実例はかなり凄まじく、手口も荒っぽいものが多い。同じ年に3度も襲われた店、10年間に2回も銃を持った賊にやられた店などが存在する。取材対象になったパトリック(仮名)の体験もかなり酷いもの。薬剤師として薬局に勤務するようになって20年以上になる彼は、これまでに2度襲撃に遭っている。時期は2001年の冬から翌年の夏にかけて。最初の時、犯人たちはパトリックに直接銃口を突き付けて脅してきた。彼が抵抗しようとしたため銃弾が2発発射され、1発は天井に当たり、もう1発は冷凍庫の扉を貫通したという。この強盗事件の後で彼は店を替わったが、そこでも再び事件に巻き込まれる。今度の犯人は比較的ソフト(?)で、地下室に閉じ込めるだけにしてくれた(!)と語るパトリック。貴重な証言だが、彼にとってはおそらく思い出したくもない体験なのではないか。
推測値によれば、薬局で働く薬剤師の2人に1人が、これまでに強盗、盗難等に遭遇していることになる。なんとも凄い数字で、警察はもっと対応を強化できないのかと思ってしまう。パトリックの意見やその他の見立てでは、薬局が特に狙われやすいのは、防犯体制が甘いこと、どんな人にも開かれた店舗であること、そして一定程度以上の現金を手元に持っていることの3点によるものとされている。そして、来客は商売である以上は止めようがないとしても、防犯体制と現金については何らか対処法もあるのではということで、最近ではだいぶ改善が進められている。
まず店に入る時にベルを鳴らし、店の人がリモートで施錠を解除してドアを開ける方式、あるいはドアの開閉時には必ずチャイムが鳴る方式などがかなり普及し始めている。監視カメラを置く店も増えており、それに連動してボタンを押すだけで警察に通報が行くシステムなども開発されている。さらに各店では、多額の現金を店内に置かずに済ませるため、客にクレジットカードか電子マネーをできるだけ使ってもらうよう呼びかけている。
それにしても終始にわたりおっかない話で、治安の感覚というのは彼我ではこんなにも異なるのだなあと、改めて感じさせられるところではある。