コメディ・フランセーズ衣装の展覧会開催中

御覧のとおりこのブログでは、筆者自身の興味関心(有り体に言えば「行ってみたい」ということ)から、美術館・博物館や展覧会に関する話題が見つかると、割によく取り上げるようにしている。今日もこのテーマで1件。8月3日付の『ラ・トリビューン』紙は、パリから南に約250キロ、オーヴェルニュ地域圏のムーラン市で開催されている、舞台衣装に関する展覧会について詳しく紹介している(Si l’art du costume m’était conté. La Tribune, 2011.8.3, p.19.)。
ムーラン市に国立舞台美術・衣装センター(CNCS)が設立されたのは2006年。パリ国立オペラ国立図書館アーカイブから移管された約9,000の衣装などを保存し展示するほか、研究対象として閲覧に供している。今年は開設5周年ということで、CNCSの中心的なコレクションを形成するコメディ・フランセーズの舞台衣装200点を一堂に展示する企画が実現した。どれも一流の衣装家がデザインし、手縫いで作り上げ、著名な俳優が直に身に付けた逸品ばかりだ。
コメディ・フランセーズは1680年に、ルイ14世の指示によって、ゲネゴー座とオテル・ドゥ・ブルゴーニュ座が統合されて誕生した。初期の頃は専門の衣装担当者はおらず、役者が自分で服を用意するのが習慣だった。衣装係が置かれだしたのは1750年、ヴォルテール作「シナの孤児」の上演あたりからと言われる。そしてフランス革命の只中、パレ・ロワイヤルの敷地内にリシュリュー館が設置された前後の時期に、当時の貴族から多くの衣装の寄贈があり、舞台作品用に新たにあつらえる服と併せ、クローゼットの中身が少しずつ豊富になっていった。
今回の展示は、コメディ・フランセーズの現役舞台衣装家であり、CNCSの展示担当役員も務めるレナート・ビアンキ氏と、同劇場学芸員のアガト・サンジュアン氏が中心になって企画構成したもの。18世紀から今日に至るまでのコメディ・フランセーズの軌跡が、衣装を通じて辿れる内容になっている。ラシーヌコルネイユ、そしてモリエールといった大作家たちの作品に使われたドレスなどが続々展示され、特にモリエールにはまるまる一部屋を使って、その作品の位置付けや意義が展示とあわせて説明される。また、これらの作家の古典作品は何度も再演されており、今回の展示には、1952年のラシーヌ「ブリタニキュス」上演の際のジャン・マレーの衣装、1974年のジロドゥ作「オンディーヌ」上演時のイザベル・アジャーニのドレスなど、比較的最近の再演時に使用された貴重な服装も含まれている。
フランス革命期の衣装が比較的地味であったり、1960年代のいわゆる社会紛争期にはそうした世相を反映するような服が登場したりと、舞台衣装も社会の動きをよく反映する一種の歴史遺産。また、作品が衣装を生み出すとともに、衣装が俳優の動き、ひいては作品上演そのものを規定していく相互作用もポイントとして見逃せない。さらに、ソニア・ドローネ氏(ウクライナ出身の前衛画家)、クリスティアン・ベラール氏(ファッション・イラストレーター)、セシル・ビートン氏(イギリスの写真家)、クリスティアンラクロワ氏、ティエリ・ミュグレル氏(共にデザイナー)といった、多岐にわたる客員衣装家の手による作品の数々も見所の一つだ。
展覧会は12月31日まで開催中。パリから列車で2時間半とかなり距離感はあるが、遠出先を探している方は候補に挙げてみてもよいのではないだろうか。