ロレアル社が新展開するニッチ的販売戦略

ロレアル社と言えば、ヘアケアや香水など幅広い分野に展開している世界最大の化粧品メーカー。日本でも著名な看板、「ロレアル・パリ」(LP)の他、ランコムやザ・ボディショップなどのブランドも傘下に収め、グループ企業として強力な経営を展開している。そんなロレアル社の中で最近注目を集めているのが、R&Dの色彩を持ち、また新たな顧客層へのアプローチを重視する「ラスカッド」という名の事業本部による営業展開。8月3日付の経済紙『ラ・トリビューン』は、ラスカッドによる「ニッチ的」商品開発の特徴、またその将来性について検討している(L’Oréal veut conquérir un million de nouveaux consommateurs en France. La Tribune, 2011.8.3, p.7.)。
スカッドはヘアケア及びスキンケア専門の事業本部であり、他とは違いフランス国内だけで事業を実施している。現在の年間売上高は4億ユーロだが、これはLPがフランス国内で売り上げている額とほぼ同じ(ちなみにグループ全体の国内売り上げは18億ユーロ)。一方売上点数で見ると、ラスカッドはLPの2倍になっているので、それ分収益性は低い(薄利多売という言い方もないわけではないが)ということになる。シャンプーのドップ、クリームのミクサなどのブランドを所轄しているが、事業本部それ自体として一般にあまり知られているとは言えない。
それでも現在、ラスカッドが注目に値するのは、この部門がいわばグループ全体のイノベーションセンター的な役割を果たしていること。デルフィーヌ・ヴィギエ本部長は、「我々は組織規模も小さいので、その分柔軟に行動し、見出された消費者のニーズにすぐ対応することができるのです」と自信を持って語る。そうした成果の一例として挙げられるのが、2008年にウシュアイア・ブランドで発売したオーガニック・シャワージェル。この商品はスーパーで非常によく売れ、結果としてオーガニック・コスメの普及に大きく貢献したと評価されている。また、ロレアル社が高級美容院チェーンのフランク・プロヴォーとのライセンス契約に基づき、プロフェッショナル仕様のシャンプーを手頃な価格で販売することができたのも、ラスカッドによる取組が多々功を奏した結果であると考えられている。
ヴィギエ氏の次の目標は、2013年までに新たに100万人の顧客を獲得すること。そのための基本的な考え方として、これまでこの種の製品の中心的な消費者としてあまり認知されてこなかった、エスニック・マイノリティの人々やお年寄りなどに向けた商品を開発、販売することを前面に押し出した。
特にエスニック・マイノリティについては、御存知のようにフランスでは人口上決して「マイノリティ」でなく、多くの黒人女性やマグレブ地方出身の女性たちが生活を営んでいる。しかも、ヘアケア商品に対し、黒人女性が白人に比べはるかに多くの支出(平均で年間250ユーロ)をしているという調査結果があるにもかかわらず、彼女たちの髪質(多くの場合縮れ毛である)や肌に合うコスメやヘアケア・スキンケア商品の販売は、これまで必ずしも各企業の射程に入っていなかった。ラスカッドでは今後この分野に注力することを明言しており、既にウシュアイア・ブランドで黒人女性の肌質に適したクレンジングクリームを発売。今後も、美容院であるジャン・ルイダヴィドのブランドによるシャンプーやトリートメントのセットを近日中に世に送り出し、さらに彼女たちの赤ちゃんのカールした髪にやさしいシャンプーの開発なども想定している。一方お年寄りについても、一人でお化粧をしたり髪を洗ったりすることが難しい状況でも使ってもらえるようなヘアケア製品などが検討の対象となっている。
ガリバー企業であってもニッチ的分野への進出を怠らない。そのことにロレアル社の企業精神を垣間見るとともに、事業本部制がうまく機能している一例(経済紙による紹介という点を割り引く必要もあるだろうが)としても、ラスカッドの事業展開を見て行くことが有益なのではないかと感じられる。