民放人気NO.1ラジオ局が開局20周年を祝う

ベルギーの民間放送ラジオBEL-RTLについては最近当ブログ(7月21日付)で取り上げたばかりだが、同局は今年の9月でちょうど20周年を迎えるのだという。フランスやベルギーのラジオ界は、長いこと続いていた公共放送の半独占状態が、80年代から90年代にかけて一変。民間放送局(音楽専門局が中心だが、総合局も)が多数出現し、大都市部では狭い周波数帯(主としていわゆるFM放送用の帯域)に各局がひしめくようになっている。8月23日付の『ル・ソワール』紙は、BEL-RTLの、長いとは言えないにせよ多くの出来事、そして成果に満ちた20年の歴史を振り返るとともに、現状を概観している(Bel RTL, 20 ans d’ondes positives. Le Soir, 2011.8.23, pp.29-30.)。
BEL-RTLは1991年9月2日午前5時に放送を開始した。開局時の番組を担当し、現在は同局のエグゼクティブ・プロデューサーを務めるピエール・ジョワイエ氏は、「最初に掛けた音楽は、アクセル・レッドの『ケネディ・ブールヴァール』だったと記憶しています。ビニール盤のレコードでした。コンピュータはCM用のものしかなく、(放送にあたっては)技術的な問題がいろいろあったものです」と「その日、その瞬間」を語る。当時、同局は新聞社であるル・ソワール社の中に開設されたが、実際にはラジオのためのスペースは用意できず、やむなくその建物の外側に作ったプレハブをラジオ制作部として使用することに。「当時は、ラジオの総合局を立ち上げるという壮大な計画と、そのための手段との間に、ものすごいギャップがありました。(プレハブで制作業務を開始した後)すったもんだのあげく、ようやく本館との間に屋根が作られ、初めて雨に濡れずに行き来ができるようになったのです」と、編集部長であったステファンヌ・ローゼンブラット氏は当時を懐かしく思い返している。
ベルギーで初めて、民間経営による全国規模の総合ラジオ局として誕生したBEL-RTL。それまで国内をネットする総合ラジオといえば、公共放送であるRTBFしかなかった。一方民間テレビ局としてはRTL-TVIが1987年に開局しており、また同じ資本(そもそもはルクセンブルクを本拠とする一大放送局グループ)によるフランスのラジオ局RTLが、60年代から長波帯を使い大出力で放送していて、ベルギー国内でも総じて良好に聴取できるという環境にあった。ラジオでは他にも、ル・ソワール社の親会社であるロセル社が形成したローカルラジオ局のネットワークRFM、音楽専門局のコンタクトなどが存在していた。こうした状況を背景に、RFMの社長であったフランシス・ゴファン氏が画策を開始し、主にロセル社とRTL-TVIに対して新局の開設案を持ち掛ける。両者ともこの案に強い関心を示し、さらに上述のコンタクトも巻き込み、ルクセンブルクとフランスにあるRTLの二大拠点に対する2年にわたる交渉を経て、最終的にRTLの名を冠したラジオ局が生まれるに至ったのである。
後述するように、現在では人気No.1として不動の地位を保っている同局だが、放送開始後しばらくは赤字決算となり、会社としての存続すら危ぶまれる状態だった。1992年の春、欠損金を補填するために開催された緊急取締役会では、コンタクトがBEL-RTLから手を引くと宣言。またルクセンブルクから参加したRTLの代表であるジャン・ストック氏は、小規模過ぎるベルギー市場は利益をもたらさないとして総合ラジオ局を維持することに懐疑的であり、音楽局への転換を求めたと言われる。結局、ロセル社とRTL-TVIの支持を取り付け、BEL-RTLはそのままの形態で放送を続けることになったが、この会議の結果次第では、現在のベルギーラジオ界の構図もずいぶんと異なるものになっていたに違いない。
以来20年。BEL-RTLはこの10年間、2回だけコンタクトに首位を譲ったものの、ほぼ一貫してラジオ聴取占拠率のトップを走り続けている(最近は16%から20%弱程度)。これに伴い広告料収入も順調に推移しており、広告代理業者ゼニス・オプティメディア社のディレクター、カリヌ・イズブラン氏によれば、2006年以降常に、ラジオ広告料収入の22%から25%を同局が獲得しているという。同局の強みは、18歳から55歳までのどの主要顧客層もカバーしている番組の幅の広さ。提供会社がどういった層をターゲットにしているかによって、異なる時間帯をオファーし、狙い通りの広告効果を出すことができるとイズブラン氏は説明する。また、RTLベルギー(BEL-RTL及びRTL-TVI)のフレディ・タシェニィ社長は、「ベルギーにおけるラジオの広告市場は、BEL-RTLと共に発展してきました。現在、ベルギー広告市場全体に占めるラジオの割合は15%に達しており、これはヨーロッパ諸国の平均値である8%よりはるかに大きい値です」と満足そうに語っている。
さらに、ベルギーにおいてRTLは(おそらく他国でも似たような状況があると思われるが)、テレビ部門とラジオ部門を両方持っていることのメリットをフルに活かしている。かなり早い時期から、人気のある司会者、出演者を両方で活用することに取り組んでおり、また技術面や組織面での相互協力を通じた効率化を推進して、メディアミックスによるシナジー効果を最大限引き出しているとされる。結果的に現在、BEL-RTLの営業成績は極めて順調。同局とコンタクト(同局の経営から離脱した後、紆余曲折を経て現在は逆にRTLのグループ入りしている)を保有する持ち株会社ラジオ・アッシュの2010年の総売上高は4,800万ユーロであり、BEL-RTLはほぼその半分を稼ぎ出していると推定されている。
同局の短期的な課題は、まずもって秋の番組改編を成功させること。以前RTBFで番組を持っていたトマス・ファン・ハム氏を引き抜いて朝ワイドを担当させ、人気パーソナリティ同士の時間帯入れ替えを図るなど、各種の編成変えを実施する。一方長期的に検討すべきテーマとしては、現在のFM波での放送からデジタルラジオDAB+)への移行が挙げられている。同局にとっては、中継局の出力等に縛られている放送送達域を、確実にワロン全域に拡大するチャンスでもあるが、一方で多額の投資を必要とする事業になるのも必至。RTLベルギーのCEOであるフィリップ・デルシンヌ氏は、「8年から10年がかりのプロジェクトになると考えられ、公共事業者とのパートナーシップ、フランス語共同体からの財政的支援がぜひ必要です」と説明し、官民あげての事業推進に期待をかけている様子だ。
最近の自分は、ポッドキャストを使ってフランス語圏の放送を楽しむことが多いが、BEL-RTLはポッドキャストに上がっている番組が少ないこともあり、正直に言ってRTBFなどと比べあまり聞いていない。さしあたり、今後はこの「圧倒的人気局」にもっと注目していきたいと考えているところ。