集住目指す国土計画の現実化はなるか

国土計画は国造りのグランド・デザインであり、ある意味で「国のかたち」をフィジカルに表していくための強力な手段とも言える。そしてもちろん、住みよい環境、経済的な豊かさを追求する上でも、国土計画が方向を左右する要素は少なくない。経済も社会も激変する現代、どのような形で実効性のある計画を打ち出し、実施に移していくことが可能なのか。9月2日付のベルギー『ル・ソワール』紙は、ワロン地域圏政府が打ち出した新たな国造りのプランとその射程について簡潔ながら適確に伝えている(Pour vivre nombreux, il faudra vivre groupés. Le Soir, 2011.9.2, p.6.)。
今から約40年後の2050年には、ワロン地域圏の人口は現在より100万人ほども増加すると推定されている。現在の人口が約350万人だから、急激な伸びが予想されているわけだ。しかも、ますます厳しい経済的背景を考慮すると、特にインフラ整備等については、今後はこれまで以上に効率性が重視されることになる。40年後のワロン地域圏をどのような形の国土として形成していけばよいのか、これは相当大きく難しい課題にならざるを得ない。
こうした点を踏まえ、ワロン地域圏政府は今般、新たな国土計画の方針を打ち出し、その実現への協力を各地方自治体に求めていくという考え方を明らかにした。まず、各自治体にはそれぞれの「居住核」となる一定の領域を設定してもらい、さらに人口が増勢基調であることを踏まえ、居住核の周辺に「拡張可能域」を配置する。市町村からの居住核及び拡張可能域の提案を受け、また地域国土整備審議会(CRAT)による客観的指標を用いた評価を経て、地域圏政府では居住核及び拡張可能域の設定について決定する。来年末までには、各自治体の承認を経て、各領域が本決まりすることが想定されているから、かなりのハードスケジュールと言えるだろう(乱暴な決め方?)。
自治体の中心部から車で10分、自転車なら15分の距離に居住区域を集中させたいというのが、フィリップ・アンリ・ワロン地域圏政府環境・国土交通相や関係官僚たちの基本的な発想。将来的には、これら区域の内側と外側で、道路、排水溝、その他の公共設備の敷設に際して支給される補助金の額に差をつける案も検討中とされる。確かにこのような「居住核」が実現すれば、行政運営上はいろいろとやり易くなるだろうし、適切な国土形成が可能になるという側面も大きいが、他方で場合によっては、一部の人たちに半ば強制的に移住を迫る結果になるかもしれない。ベルギーの人々の土地に対する意識がどのようなものか、迂闊なことは言えないけれど、行政の思惑どおりの計画がそのまま実現するのだろうか?
折しも我が国においても、日本学術会議が9月8日に発表した「持続可能社会における国土・地域の再生戦略」において、「居住活動空間の順応的凝集」という概念が打ち出され、今後の各種政策に反映されることが想定されている。なにやら難しそうな概念だが、要するに今よりも集中的な居住空間を作ろうという発想だろう。しかし、人口減少社会の深化を前提にする(この点はワロン地域圏とは逆)とはいえ、(たとえ「限界集落」といえど)土地に対する根付き意識の強い日本人が、計画的移住といった発想を自然に受け止められるようになるだろうか。そういった問題関心からも、おそらくは日本ほどの固着的感覚はないと思われるベルギーでの国土計画がどのように展開されるのか、興味の尽きないところである。