1年半ぶり新政権、その組閣をどう見る

御存知のとおり、暫定政府という形での政治空白が1年半も続いたベルギーで、ようやく新政権が誕生。30数年来のフランス語圏出身の首相、社会党に属するエリオ・ディ−ルポ氏の下、連立政権を構成する6党間で12月4日(日曜日)夕方から翌日午後にかけ、実に19時間もの協議が続けられ、ようやく新政府の構成が決定された。長時間に亘った話し合いは何を意味しているのか。12月6日付『ル・ソワール』紙は、決着した政府構成の含意や、今後のベルギー政治の展望などについて、2人の政治学者に見解を問うている(Quelle est la couleur du gouvernement? Le Soir, 2011.12.6, p.11.)。
今回『ル・ソワール』紙のインタビューを受けているのは、ブリュッセル自由大学のジャン−ブノワ・ピレ教授と、アントワープ大学のデイヴ・シナルデット教授。それぞれワロン地域圏、フランドル地域圏を代表しているようなところもあるが、今回の新政権樹立に当たって、まず徹底した慎重さが要求された結果、協議が長時間化したという点については、ほぼ二人の考えは一致している。ピレ氏は、各党が事前の下打合せなしにこの協議に取り組んでいたこと、合意形成をブロックすることを強く恐れた結果、課題を先送りしつつ閣僚らを決めていったと見られること等を指摘。一方シナルデット氏は、各党とも(経済情勢や市場の反応という)強い圧力にさらされているのは同じであり、言語圏別の閣僚数バランスや閣外相の数といった、本来着地点が両立しにくい課題について大幅な妥協を強いられた結果、その分の時間がかかったのではないかと推定している。
閣僚数の配分を見ると、首相を別にして、フランス語圏から6人(フランス語圏社会党(PS)2人、フランス語圏自由党(MR)3人、フランス語圏民主人道党(CDH)1人)、オランダ語圏からも6人(フランドルキリスト教民主党(CD&V)2人、フランドル自由民主党(VLD)2人、フランドル社会党(SP.A)2人)。またこれとは別に閣外相が、PS1人、CDH1人、CD&V2人、VLD1人、SP.A1人と配置されている。この点については、ピレ氏、シナルデット氏の両方とも、フランス語圏・オランダ語圏双方で、議席数に比して自由主義政党(MR、VLD)が相対的に高い地位を確保したことに言及している。ピレ氏はMRが3名も閣僚を取れた理由を、若く有能な党首の発言力が功を奏したのではないかと分析し、シナルデット氏はVLDが法務、年金問題移民問題といった、比較的目立つポスト(閣外相を含む)を押さえた点に注目する。
新政権の大臣13名、閣外相6名という体制は、後者は増減なしだが、大臣は前の政府に比べて2名減となっている。13人しか大臣がいないというのは第二次大戦後最小であり、これについてピレ氏は、政府が緊縮態勢にあることを明示するため、これまで大臣が担ってきた業務を閣外相の所掌とするという手法を使ったのではと考える。ただこの点について、シナルデット氏は「大臣と閣外相をトータルで数えれば、90年代のデハーネ政権でポストが16まで絞り込まれた(大臣15、閣外相1)こともあり、それほど緊縮的とも言えない」といったクールな反応だ。
言語圏同士の関係についての分析で面白かったのはピレ氏。外相という最重要とも言えるポストが、オランダ語圏からフランス語圏に移った(これまで財務相だったレインデルス氏が外相に横滑り)点に関する問いに、「フランドル側では社会経済的な課題が優先的と見られており、(政府内での存在感を重視するフランス語圏側との)世論やメディアの反応の違いが、(獲得閣僚の)選択の違いとなって現れている」と説明するあたりは、かなり興味深い見立てだなと思った。
記者からの二人に対する最後の質問、「政府の任期はあと2年半しかありませんが、これは真の政策と言えるものを打ち立てるに十分な長さでしょうか?」に対しては、「これまでに構想されている政策を具体化するにはなんとか足りるというところでしょうか」(ピレ教授)、「取り組むべきことは数多くあり、現在の危機に対して猶予はなく、まずは動き出さねばなりません」(シナルデット教授)と、双方から何とか将来に希望を見出したいという気持ちが透けて見えるような答えが返って来た。これまで言語圏間の根深い対立で身動きが取れなかったのが、経済危機(とりわけベルギー国債の危機)に立ち向かうためとりあえず一致団結せざるを得なくなったというのも因果なことではあるが、これを機になんとかして、あるべきベルギーの国のかたちを粘り強く考えていくというベルギー政治の良き伝統が戻ってくればよいのではないだろうか。