新任教師の支援プログラムを模索

どんな仕事でも、とりわけ初職の場合、慣れていく(それは「仕事することに慣れる」ということでもある)のは大変だ。日本でも就職する若年層の定着率が下降傾向にある(理由はさまざまだろうが)というのはよく聞くけれど、昨今のベルギーでは、新規採用された教師が短期間に離職する状況が問題になっているという。12月5日付『ル・ソワール』紙は、新人の先生たちが職に慣れることができるような支援策の検討事情について伝えている(Encadrer les profs pour qu’ils restent. Le Soir, 2011.12.5, p.6.)。
最近の調べによると、新たに教員になった者のうち、約40%が5年以内に退職しているとされる。フランス語共同体政府の義務教育大臣官房では、この数字はとりわけ新たな状況を示しているわけではなく、また他の職業でも似たような事情(定着率の全般的低下)もあるのではないかという見立てのようだが、それにしてもせっかく先生になったからにはもっと続けてもらいたいと思うのは当然の発想。フランス語共同体議会議員であるバーバラ・トラフト氏は「特にブリュッセルでは教員不足が著しいので、これは緊急に対応すべき課題です」と主張している。
そこで検討が進んでいるのが、新任教師を支援する制度の導入。チューター制、メンター制、コーチングなどさまざまな用語があり、それぞれ少しは定義の相違もあるだろうが、そうした違いはともかく、何らかの形でベテランの先生が初任者を助け、ときには指導していくことが構想されていると言ってよい。トラフト議員は具体的な方策として、学校外での支援活動の導入(校内支援との併用)、支援制度の具体的実施に際する校長の支援、支援対象となる教師の勤務時間軽減などが必要になると考えている。実のある支援を受けるにはそれなりの時間を要するし、学校内では話せないことを忌憚なく語ってもらうためには校外活動も必要になってくるという考え方なのだろう。
上記の方策のうち実務的には、支援される側、そして支援する側の教師の勤務時間についてどう扱うかが問題となっており、既に行政当局と労働組合とで協議が開始されている。当局側は、ベテラン先生の勤務時間を新人支援にまわすだけの余裕はないとして、退職した元教師を起用することを提案。これに対して組合(ベルギー労働総同盟(FGTB)傘下の公務総連合(CGSP)教員部会)側は、退職間際であっても現役の教員を任に当たらせるべきだと主張している。もっとも一方で、新規採用の教師と引退を控えた教師について、それぞれ勤務時間を3分の1ずつ削減し、それで生じた時間を定着支援に使うという案も出されているようだ。
実は首都ブリュッセルでは、新人先生支援プログラムがもう試験的に開始されている。ブリュッセル首都圏地域フランス語共同体協議会会長で、予算や教育等を担当する理事でもあるクリスト・ドゥルケリディ氏が承認し、中等教育を担う4校で始まったプロジェクト。ここでは、経験豊かな先生たちの中からボランティアで6名を選び、若い教師に対するメンター役を引き受けてもらっている。通常は1対1で、新人の悩みをベテランが聞いたり、アドバイスしたりしており、また時には集団での懇話会なども開催されるらしい。
プロジェクトのコーディネーターであるアリアーヌ・メルラン氏は、単に支援をする、支援を受けるというだけでなく、お互いがそのやり方を一緒に考えていかなければならないと考えており、またこうした取組みはボランティアベースでないとうまく機能しないだろうと感想を表明している。そして、上述のトラフト議員もこれに呼応するように、「支援のシステムはそれぞれの学校で事情に即して作られるべきものです」と、決まり切った支援のやり方など存在しないことを確言している。当面は制度として初任者支援が成り立つかが焦点だろうが、仮に本格実施に移されたとしても、その後はそれぞれの先生たちが手探りで実践を積み重ねていくことになるわけで、定着までには相当の時間がかかるのではないだろうか。