海岸部の災害緩和に向け大規模防御工事を実施中

国土の約4分の1の標高が海面より低く、恒常的な排水によって維持されている土地であるため、とりわけ気候温暖化、特にそれに基づく水面上昇に深い関心と憂慮の念を持っていると言われるオランダ。そして隣国であるベルギーも、オランダほど平らというわけではないにせよ、北海に面した地帯についてオランダと同様の関心を抱いており、また起こり得る事態に対する対策を余儀なくされる状況にある。12月23日付のフランス『ル・モンド』紙は、全長67キロにわたるベルギーの海岸部を災害から守るために新たな計画が策定され、現地では具体的な作業等も始まっているとの現状を報じている(Le grand chantier de la Belgique contre la montée des eaux. Le Monde, 2011.12.23, p.8.)。
地球の温暖化に向けての国際的な取組が、完全停滞はしていないにしても充分なスピード感を伴って進んでいるとは言えない中で、将来生じかねない災害に対するベルギー沿岸部の安全性に関する調査では、厳しい予測が数多く出されている。1,000年に1度の割合で海岸を襲うことが想定される嵐についてシミュレートしたフランドル地域圏海洋庁沿岸開発課のナタリー・バルカン課長は、「250名の人命が奪われ、また経済的損害は21億ユーロに達する恐れがあります」と指摘し、さらにひとたびこうした嵐が起こると、海水が干拓地を覆い尽くし、最終的には水は海から10キロ以上離れたブルージュまで達する可能性があると警告する。しかも気候温暖化によって、海面は2050年時点で現在より30センチ、2100年では60センチ上昇することが予想されており、この場合、嵐で水面が8メートル上昇したところからさらに高さ5メートルの波が襲ってくれば、現在ある堤防をやすやすと乗り越えてしまうだろうとの分析もある。ゲント大学で地形学を専攻するフィリップ・コーニングス氏も、「こうした嵐はいつの日か確実に起こるでしょう」と述べ、その時には港や沿岸都市が決定的なダメージを被るだろうと明確に指摘する。
北海沿いのベルギー沿岸部は、オステンドとゼーブルッヘの2つの商業港に加え、4箇所のマリーナ等を擁し、人口密度は相対的に高い。また4か所の自然保護区域を有し、海に面した観光地として年中賑わっているのも特徴。しかし、1953年にオランダを直撃し、同国南西部を水びたしにした嵐(200年に1度は起こる可能性が高いとされる規模の災害)のレベルを仮定しても、ベルギーにおける対策は非常に不十分と言われており、海岸の3分の1が大きな被害を受けるのではないかと予測されている。
そこで、想定の範囲内にある災害に対して防御の役割を果たせるような海岸部の改修及び再整備が現在進行中。オステンド周辺等計4か所で、災害に強い浜辺や砂丘への転換、新たな防波堤や防護壁の建設等、第1弾の工事が始まっている。手法の1つは、海底の砂を浚渫し、それを海岸に積み上げることで、水位低減と陸地の防護強化の2点を同時に達成しようというもの。浚渫船、ブルドーザー、パワーショベルが大活躍しており、浚渫作業を得意とするDEME社のデニス・シュールンク氏は、ベルギーでの作業はほぼルーティンに近い内容だ(特殊な要素は少ない)としてその成果に自信を示している。地域圏政府では、さしあたり2020年を最初の目標時期とし、それまでに海岸の中で一番災害に弱い地域を充分に強化することを目論んでいる。
これらの工事に対する予定経費は、現時点では総計3億ユーロ。大変な額と見えるかもしれないが、オランダは同様の工事費に年間で10億ユーロを支出しているというから、相対的にはまだ軽微とも言える。オランダの場合、水面下に位置する土地を守り抜くことを一種の国是としているので、巨額な費用をかけることも容認されるのかもしれない。
ちなみに、フランドル地域の産業界の一部では「フランドル地方湾岸プロジェクト」なるものを打ち出し、海岸部の大規模な防護策と併せて、風力発電基地、人工島、そして新たな貨物用空港などの建設を含む30億ユーロ規模の計画実現を目指していると言われるけれど、財政危機を強く意識している政界からは手ごたえのある反応は全くないとのこと。確かにちょっとバブリーなイメージが否めないプロジェクトで、国土の安全を目的とする施策とは大義の程が違い過ぎるといったところなのだろう。