欧州経済危機の分析本、続々刊行

リーマン・ショックとそれに続く金融危機の衝撃が充分収まらないままに、ギリシャ問題を発端とするユーロ危機に直面している世界、とりわけヨーロッパ。こうした状況は財政等を通じて人々の生活にも大きな影響を及ぼしており、失業の増加、あるいは増税などに基づく生活の困窮化などの傾向が露わになっている。現時点で人々が最も注目しているのは、ヨーロッパは今最悪の状況(どん底)にあるのか、今後長期間にわたる不況の入口に差しかかったに過ぎないのか、あるいは逆に再浮上の可能性はあるのかということであろう。12月27日付の『ル・パリジャン』紙は、こうしたテーマを取り上げ、何らかの展望を見出そうとしている4冊の新刊書を簡単に紹介している(Crise? Vous n’avez encore rien vu. Le Parisien, 2011.12.27, p.29.)。
まず、パリ・ドーフィンヌ大学(経営学中心)教授で、かつてはドミニク・ストロス−カーン経済財政産業相(当時)の参与も務めたこともあるジャン・ピサニ−フェリー氏の近著『悪魔の目覚め』。本書で彼は、ギリシャ危機をきっかけにしてなぜユーロが投機家の支配するところとなってしまったのかを問い、欧州中央銀行(ECB)の通貨防衛体制が充分でなかったこと、加盟各国の財政規律が事実上ないがしろにされてきたことなどを大きな問題点として挙げる。そして、ヨーロッパの政治家全般が、こうした事態にきちんと立ち向かえなかったことを疑問視しつつ、現在の危機から脱出するための新しいシナリオを提案する。詳細は不明ながらも、まずはオーソドックスなアプローチ。
一方、この間のヨーロッパの銀行の在り方を主要な問題とするのが、テレビや雑誌でも活躍しているフランソワ・ドゥ・クロゼ氏著による『最終期限』と題する図書。危機的状況を長期間軽視し、ヨーロッパ(あるいはフランス)にだけは嵐は訪れないという幻想に留まった政府を批判すると共に、国債危機の影響を直接被ることになった諸銀行の見通しの甘さを厳しく指摘する。そして、負債積み上げの強力な抑制、高所得層への課税強化、投機的行為の差し止め、そして銀行の経営行動に対する制約の付与などを、危機に対抗するためのラディカルな施策として提言するのである。
もちろん銀行関係者サイドからも声は上がっている。クレディ・リヨネの元頭取で、現在も投資銀行のトップを務めるジャン・ペイルルヴァド氏が刊行した『危機的状況にあるフランス』は、このまま経済危機(国家の過剰負債、産業の劣化等)に対し手をこまねいていたら、フランスは世界の第一線から退き、衰え行く国になってしまうだろうと警告する。同氏の提唱する対策は、労働の強化(法定労働時間を増やすことなどが想定されていると思われる)、増税、そして消費の制御など。上述のドゥ・クロゼ氏と分析においては似ている面もあるが、危機脱却の方策の部分では、ペイルルヴァド氏の方がより国民全般に負担を及ぼすような内容になっている。
そして、一番過激な論陣を張っているのは、フランス経営研究所付属の金融高等研究センター所長であるフィリップ・ドゥセルティンヌ氏。これまでも『これは危機ではなく、世界の終わりである』、『世界は戦争へと消えゆく』といった派手なタイトルの著書を送り出してきた同氏、今回は『減圧』という意外にもシンプルな標題だが、ユーロの信頼性低下といった「今ここにある危機」を問題にしているだけに、内容は以前に勝るとも劣らぬほどに重い。著者は今後の10年に特に焦点を置き、この間に弥縫策でない真の問題解決を目指して確かな選択を続けていかない限り、フランスには(おそらくユーロにも)明日はないと厳しく警鐘を鳴らしている。
新聞記事はあくまでも簡潔な内容紹介にとどまっており、各論者が具体的にどのような対策を提唱しているのかなどは必ずしもはっきりとしないけれど、そのあたりは読者が個々の本を読みこんで確認すべき点なのだろう。どの著者も現状に対して多大な危機感を持っており、その危機感は容易に解決できたり、あるいは問題を糊塗することで解消したりするものではあり得ないと考えているのは確かだが、問題構造に関する認識や、あるべき対策、解決策などについては、それぞれ違いや個性があるものと察せられる。どれもいわゆる学術書ではなく、一般書の範疇に入るものなので、フランスの論者がユーロ危機、経済金融危機をどのように捉えているのかを知るために、読んでみるのも興味深いのではないか。