ビールの一斉値上げはカルテル?

ベルギービールについては当ブログでも何回か取り上げているが、とにかく小さな国にあれだけのビールの種類があることは本当に楽しいことだと思う。さらに、比較的安価でいろいろ味わえるのも魅力の一つ。ただここでも他に違わず、価格上昇という流れは止めようもないらしい。12月29日付のベルギー『ラ・デルニエール・ウール』紙は現在の動向を分かりやすく紹介するとともに、その問題点についても伝えている(La bière n’en finit pas de mouser. La Dernière Heure, 2011.12.29, pp.2-3.)。
この年末、ベルギーを代表する2大ビール製造企業が競うかのように告知を出した。ABインベヴ社(ステラ・アルトワ、レフ、ジュピレー、ヒューガルデン等のブランドを製造)は3月1日から平均5.9%の値上げ、一方アルケン−マース社(マース、グリムベルヘン、モール・シュビット等のブランドを製造)は3月12日から平均6%の値上げに踏み切るという。インベヴ社は大麦等原料の値上がり傾向をビール価格引き上げの理由として挙げ、一方のマース社はエネルギーコストや、物価スライド制による賃金引き上げを主な値上げ要因としている。ちなみに両社とも、対象としているのは卸売業者やスーパーに対する缶ビールや瓶ビールであって、カフェやレストランに対する樽での出荷分については今回の措置の対象とはしていないという。
これはすなわち、今回の値上げが「直接には」消費者に対するものではないということを意味する。ABインベヴ社の広報担当は、「我々は消費者が支払うことになる価格を固定するものではなく、卸売業者や流通業者が(今回の値上げを受けて)それぞれの価格を決めるのです」とすら弁明する。しかしこれが詭弁に近いものであることは明らか。消費者保護団体であるテスト・アシャ協会で広報を担当するアリネ・ファン・デン・ブロック氏は、「これは見え透いたシナリオで、結局は消費者が仕方なく値上げ分のツケを払うのです」と断言。ベルギービール商連盟のスヴェン・ガッツ会長も、「いずれは消費者に影響が行くでしょう、それは当然です」と語る。さらに、直接には値上げ対象でないとされる飲食店でのビールについても、ブリュッセルカフェ連盟のジャン−マリ・デ・ヴァンデレール会長は、「今まで、缶や瓶で値上げがあると、すぐに樽の価格も追いかけるように上がったものです」として、近々に影響が及ぶとの予想を述べているのである。
2大企業による今回の値上げ発表については、消費者側からの反応も厳しい。上述のテスト・アシャ協会はとりわけ、2社の値上げがほぼ同時に行われ、また上げ幅もほとんど同じことに注目している。同協会のファン・デン・ブロック氏は、「価格に関する(両社の)共謀があったという恐れなしとしません」と語り、競争政策上の不正行為が行われたのではないかという疑念を示す。こうした考え方は政府でも共有されており、ヨハン・ファンデ・ラノッテ経済相は本件について審査・検討するよう競争評議会に求めると見られている。ビール価格の引き上げが2009年以降毎年実施されている点も、政府の経済当局にはとりわけ問題視されているらしい。
もっともそこは敵もさる者、価格カルテルの嫌疑を掛けられることぐらいは織り込み済みだろうから、最終的には問題なく値上げ承認というところに着地はするのだろう。ビール商連盟のガッツ会長は、「ユーロ導入以降、ビールは50%値上がりしているのですが、ソフトドリンクやコーヒーより上げ幅は小さいのです」と述べ、自らを慰めるそぶりを見せる。しかしそもそも、この間の一般的なインフレ率が24%に過ぎないことも忘れてはならないのではないか。なんとなく釈然としない、初春のビール商戦ではある。