政治の老齢化は重大問題か

政界の高齢化問題は、多くの国(特にいわゆる先進国)で潜在しており、何かの折に思い出したように論じられるテーマの一つ。日本では最近、政治にいろいろ新しい風も吹き始めているようだが、どうもフランスはいまだにこの問題が顕著で、さらに高齢化傾向が強まりつつすらあるようだ。12月29日付『ル・モンド』紙は、『反−若者のフランス』の著者、グレゴワール・ティロ氏による、フランスの「老齢政治」とその解決策などに関する論説を掲載している(Une France de plus en plus gérontocratique. Le Monde, 2011.12.29, p.17.)。
彼はいくつかのデータを示しつつ、フランスの政治がいかに老齢化しつつあるか(それも急激に)を明らかにする。一つは政治家、すなわち議員の年齢。1981年の段階では40歳未満の国民議会議員は100名以上もいたが、2007年にはわずか23名に減少。元老院に至っては、9月の選挙後、40歳以下の議員は6名しかいない。55歳以上の国民議会議員の割合は、2002年と2007年の間に、42%から60%に急上昇しているし、現在の元老院議員の平均年齢は62歳となっている。両議院を併せて見ると、2010年末現在で人口上23%を占める60歳以上の議員が60%以上、一方人口の19%を構成する25歳から40歳の世代では、議員の割合は3%でしかない。
議員の高齢化は諸外国に比べても際立っている。全国民の年齢の中央値と議員年齢のそれとの差を比較したデータ(2007年時点)によれば、フランスは16歳差となり、ドイツやスロヴェニアの8歳差、スウェーデンやスペインの9歳差を大きく上回っている。そしてこうした趨勢の反映か(あるいは逆か、にわとりと卵のようなものだが)、若年層の国政選挙における投票率が高齢層に比して著しく低いことも、既に各種の調査によって明らかになっている。ティロ氏はこうした数値に基づきつつ、フランス共和制はいまや少しずつ「老人専制」になろうとしているとまで極言するのである。
高年齢の人が投票し、高年齢の人が選ばれるという図式で成り立つ議会は、当然高年齢層を重視し、つまり負担を先送りするような政策を決定してしまうというのが彼の主張。緊縮財政下にありながら老齢最低保障手当の引き上げを実施し、その分のつけを国家債務に回すというような現在進みつつある政策の方向性も、「年寄り」の多い議会内では疑問を持たれることなく成立してしまう。
こうした状況を打破するため、ティロ氏は議員の年齢を若返らせる方法を模索する。手っ取り早く考えれば、立候補者の年齢を制限してしまうというのが単純かつ有効だろうが、さすがにこれは平等性の観点から、あるいは老人差別であるという考えから批判され、また憲法院や行政裁判所の疑義、拒絶を免れないだろう。そこで彼は、政治・行政関連の職務における兼職禁止の規定の新設及び強化、また同一職務への再任回数の制限といった規定をもって、実質的に議員を入れ替わらせ、そのことで若い世代がもっと議員になれるような環境をつくることを提案している。
ティロ氏の示すデータは自説を強化する目的で選択されている可能性も少なくないが、それでもフランス議会が高齢化のトレンドを顕著に示していることには間違いなさそう。ただ、どうしてそうした状況が急激に現れているのかについては、政治制度や社会意識など、様々な面からきちんとした調査研究を行っていくべきだろう。彼のこの新聞論説、また著書は、そうした研究の上で参考になる重要な知見をもたらしてくれるのではないか。