「さかな税」廃止、そのいきさつと影響

当ブログでも先日書籍に関して紹介した(1月14日付)ように、昨年から今年にかけて、フランスは付加価値税を中心とする税制の改訂が多岐にわたって実施されているわけだが、軒並み「引き上げ」「税率アップ」といった話が並ぶなか、例外をなしているのが海産魚税の昨年末での廃止。だいたいこんな税がこれまであったというのが面白いけれど、12月29日付『ル・パリジャン』紙は、今回この決定に至るまでの経緯や、今後考えられる影響などについて報じている(La taxe poisson disparaît… mais les prix ne baisseront pas. Le Parisien, 2011.12.29, p.8.)。
この海産魚税は、そもそも2007年末、石油高騰に音を上げストライキを打った漁民たちに対処することを名目にして緊急に導入されたもので、1年に77万7千ユーロ以上の売上高を挙げる販売店舗(スーパーや大規模魚類商等)から、海産魚(エビ、カニなど甲殻類や淡水魚は除く)の売上げの2%を徴収することとした。例えば2010年には、約7千万ユーロが当税の名目で国庫に納められ、漁業環境の支援等に役立てられてきたとされる。
税を課せられた小売店側では、その負担の一部を自ら吸収しつつ、消費者販売価格にも転嫁してきた。国立統計経済研究所(INSEE)の調べでは、2007年12月にキロ当たり9.65ユーロで売られていたギンダラが、翌1月には10.26ユーロに、18.03ユーロだったマダラが19.89ユーロにそれぞれ値上がりしており、価格上昇分の一部が新規課税によるものと考えても不自然さはない(もちろん経費上昇等、他のファクターも値上がりに関わってはいるだろうが)。ただ、商業に関する職業団体である通商企業連盟(FCD)では、魚類の値段は基本的に激しい変動を繰り返しており、価格が上がった要因は税というよりもまずは漁獲量(が需要に比して少なかったこと)ではないかという見解を示している。
現在の大方の見立てによれば、今年から海産魚税がなくなると言っても、その分魚類が安く買えるようになるのは考えにくいらしい。全国海洋漁業委員会のピエール−ジョルジュ・ダシクール会長は、近年消費者が魚を好む傾向が強まっていることを念頭に、「(魚類に対する)需要が非常に大きいので、価格は下がらないと思います」と確言する。今のところ、これまで国庫に納められてきた約7千万ユーロのうち、半分の3千万ないし3千500万ユーロについては、新設される「フランス漁業関係者協議会」に対して拠出され、持続可能な漁業の振興等に役立てるものとされているが、残りの3千500万ユーロについてはそのまま消費者の利益(つまり値下げ)につながるとはどうも言えないようだ。
一方で驚くべきなのは、ダシクール会長が気軽に口にした「漁民たちはこれまで、(海産魚税から)全く利益を得てきませんでした」という発言。要は経費や販売価格が著しく変動する中で、2%の課税効果などどこかへ吹き飛んでしまったと言いたいのだろうが、それでは余計な支出を強いられた販売店舗なり消費者なりの立場がない。要するにそういった効果の定まらない課税であってみれば、ここらで廃止するのも当然、といったところなのだろうか。