リール名物、真冬の観覧車が回る

ヨーロッパで意外と頻繁に見かけるのが、なんと言っていいのかわからないが、「移動遊園地」とでも表現できるもの。遊園地にある比較的小規模の遊具が、お祭りなどの際、街の広場に並べられ、数日ないし数週間が過ぎるといつのまにかなくなっている。運営管理者は遊具を運んであちこちを転々と移動しているわけだが、そうした遊具の中にしばしば「観覧車」が含まれているのはちょっと驚くところ(観覧車を広場に敷設し撤去するという作業を繰り返し行うなんて!)。12月30日付の地方紙『ラ・ヴォワ・デュ・ノール』は、フランス北部、リール市の中心にあるド・ゴール将軍広場に毎冬設置される観覧車について、その経緯や経済効果などを伝えている(La grande roué, un symbole ancré dans le paysage économique. La Voix du Nord, 2011.12.30, p.14.)。
クリスマス前後の時期、リールの街に観覧車が初めて置かれたのは23年前。現在の運営管理者であるマチウ・レトコワ氏の父親が市役所に働きかけたことで実現した。真冬の催事シーズンに出現した観覧車はたちまち人気をさらい、以後現在に至るまで、毎年同じ時期に設置されるきっかけとなる。今でこそフランスの数多くの都市で、この季節に観覧車を設置するようになってきているが、リールはそれらの先がけ。34歳、先代から引き継いで移動遊園地を営むレトコワ氏は、冬の観覧車にとってリールはベストロケーションだと自信を持っている。
毎年必ず観覧車が登場するのは、運営管理者側の希望(そろばん勘定)と共に、それを受け入れる市役所の意向に拠るところも大きい。商業担当助役を務めるジャック・ミュテ氏の考えでは、観覧車は既にこの街の冬を美しく彩るシンボルとして定着しており、年間の20%とも25%とも言われるクリスマス期の商店売上げの増進に大きく寄与している。一方、都市環境・催事担当助役であるジャック・リシール氏は、観覧車が設置されている敷地の賃借料が9,200ユーロであり、その他のアトラクションも含めると2万5,000ユーロが市の収入になっていることを示し、移動遊園地が市の財政にも相当貢献していることを明らかにしている。
近年の動きとして目立つのは設置期間の延長。一昨年まで、観覧車の運行は1月11日が最終日だった。ところが昨年は、悪天候が続いたことを理由に、終了日は1月17日まで延長。これは運営管理者にとってメリットであるとともに、ちょうどバーゲンの時期に当たる広場周辺の店にとっても(観覧車が買物客の流れに弾みをつけるという意味で)大変喜ばれたとされる。結局2012年も、これまでよりは期間が延び、1月15日が最後となった。一方で開始日は11月19日ということになっていて、クリスマスから数えれば1か月以上も前。しかしミュテ助役は、「周りの都市と比べて出遅れないように、ということですね」と微笑む。こと観覧車に関しては、近くはアラス(パ・ドゥ・カレー県の県庁所在地)、離れたところではブリュッセルやロンドン(遠いとは言えTGVに乗れば早く着く)すらも競争相手として意識しているらしい。
レトコワ氏の観覧車や各種アトラクションは、冬の時期を除くと主にベルギー国内を巡回しているが、「普段から、これがあのリールの観覧車ですか?とよく聞かれるんですよ」と打ち明け、冬の催事の定着ぶりは自他共に認めるところ。ただしもちろん商売だから、地代や各種経費などの分はきちんと回収しなければならない。リールの場合、上述の賃借料で52日間運営するとなると、計算上は大人用のチケットが毎日44枚(1枚4ユーロ、ちなみに子どもは3ユーロ)売れればもとが取れることになる(実際は借代の他に何がしかのエクストラチャージがかかるそうだが)。しかし、「明日の天気や気温のことは分かりませんから(売上げがどうなるか、先行きは不透明)」と、一定の慎重さは崩さないレトコワ氏。運営者、市役所、商店の人々、そして来場者、いろいろな人々の思惑とともに、今後もリールの冬の観覧車は回り続けていくことになるのだろう。