どれほど温室栽培が発達しても、旬の野菜はおいしい

日本の食生活が、良い意味でも悪い意味でも季節に縛られなくなって久しい。採光や空調を調節した栽培技法を用いて、多くの野菜などが季節を問わずに栽培、収獲されるようになっているし、それで足りなければ他国から輸入することも容易だ。日本よりも寒冷の度合いが多少厳しいベルギーでも事情は似たようなものだが、一方では、これも我が国と同様に、「季節のものはその季節に」という感性も捨てきれない部分があるらしい。3月14日付『ラ・キャピタル』紙は、ベルギーにおける野菜・果物栽培「発展」の現状と、それに対するニュアンスを込もった思いなどを伝えている(Les fraises belges sont là. La Capitale, 2012.3.14, p.20.)。
ベルギーでは冬の日照が少なく、また寒さも相対的に厳しいからだろうが、ビニールやガラス製の普通の温室では、大幅に季節を先取りするような栽培は難しいようだ。ブリュッセルの南南東約50キロ、ジャンブルー市にあるワロン地域圏の野菜栽培業センター(CMI)で所長を務めるジャン・マレシャル氏は、「我々のところでは、トマトやピーマンを、温室内で4月末から5月初めにかけて植え、7月に収獲します」と述べる。つまり普通の無暖房温室では、夏野菜の栽培をそれほど前倒しすることはできない(せいぜい1か月程度か)というのが実態なのだろう。
しかし3月に八百屋やスーパーの店頭を見ると、当然とは言えトマトもナスもピーマンも、しかもベルギー国内産のものが販売されている。この野菜についてマレシャル所長は、「これらは温度が一年中一定に保たれている温室で栽培されたものです」と説明する。フランドル地域圏内、アントワープから北東に約30キロ付近にありオランダ国境にも近いホーホストラーテン市を中心として、こうした「完全空調型温室栽培」が実施されており、ここでは例えば冬のイチゴといったものも収獲することができる。もちろんベルギーの場合、南欧からの輸入を考えれば、夏物の野菜やくだものを本来の季節以外に入手することは、もともとそれほど難しくはなかったのだろうが、ここではまず、国産品で季節を大きく外れた栽培が行われ、市場に商品が流布しているということが一つの問題と言える。
ブリュッセルで料理学校「ムムムー」を主宰するカルロ・ディ・パスカル氏は、「(長い冬に)キャベツや根菜類ばかり食べていて飽きるということもありますし、自分も数日前に、ベルギー産のなすを入れたパスタを食べました。美味しかったです」と告白し、また「今の時期、スペイン産より(温室育ちの)ベルギー産野菜を食べた方がいいです。スペイン産は生育条件が良くないことが多いので」とまで述べる。ただそういう彼も「以前はトマトを年中食べていましたが、止めました。本当においしいのは露地栽培のもので、8月頃しか食べられません。それ以外の時期の国産トマトは多少粉っぽいですし」と語るなど、旬のものへの愛着も持ち合わせているようだ。温室もの、輸入もの、そして季節の露地もの。さまざまな野菜や果物が横並びで店を賑わせ、人々はそれぞれの好みで買っていくという状態が、おそらく今後もずっと続いていくことになるのだろう。それを豊かさと呼ぶのかはさておき。