水道水の一部の質に重大な憂慮あり

海外旅行では水に気をつけなさいとよく言われ、自分はフランスでミネラルウォーターばかり飲んでいるが、実は「基本的には」この国の水道水には質的に何の問題もないらしい。今手元にある『地球の歩き方 パリ&近郊の町’11〜’12』にも「フランスの水道水は石灰分が多いが飲んでも大丈夫」(10ページ)とはっきり書いてある。そういう意味では自分の行動は過剰防御ということになるのだが、これに関して最近興味深い調査報告が出されている。3月21日付『ル・パリジャン』紙は、消費者団体が実施した水道水に関する調査と、その少し危なげな結果について伝えている(L’eau meilleure à la ville qu’à la campagne. Le Parisien, 2012.3.21, p.12.)。
全国の消費者団体を束ねる「消費者組合連盟・何を選ぶべきか」というちょっと面白い名前の組織が、フランス厚生労働省による水道水の質に関する分析結果を2年分にわたって精査し、市町村ごとのデータをはじき出したところ、興味深い傾向が明らかになった。大都市で供給されている水にはほとんど問題が確認されていないのに対し、人口3万人以下の市町村の水道水では、諸々の事情による水質悪化がしばしば観察されたのである。同連盟全国事務局理事であるシルヴィー・プラデル氏は、97.5%のフランス人に供給されている水道水の質は良好であるものの、「200万人近くには飲用という点で質の悪い水が流されていることになります」と見解を表明している。
汚染の原因は様々で、細菌が検出されたものや微量のアルミニウムが含まれるものなども見られたが、一番多いのは硝酸塩など、農薬や化学肥料由来の物質が(主として地下水等の)水源に入りこむことによる汚染。以前に当ブログで、窒素肥料や畜産廃棄物の土中での漏出が巡りめぐって、海岸及び河川の富栄養化が発生し、その結果ブルターニュでアオサの大量発生という問題が生じていることを取り上げたが(2011年7月27日付)、水道水の劣化についても、背景は類似していると言える。同連盟会長のアラン・バゾ氏は、「この20年で(農家による)殺虫剤の使用はほぼ横ばいのままですし、窒素肥料もわずか12%しか減少していません」と述べ、「水源の防護策や、(農薬による水質汚染に関して)汚染者負担原則などが全く採られていないのは異常なことです」と告発している。ちなみにこの件に関しては、生産性アップを至上命題とする集約農業にシフトしがちな農家の全般的状況に対し、国がもっと問題性を認識すべきではないかとする会計検査院の指摘が2010年になされていることにも留意すべきだろう。
ちなみに、自治体の規模が小さいほど水質が悪くなる傾向にある理由としては、規則で定められた水質管理措置(検査の頻度等)が小規模市町村について不十分なのではないかという点が挙げられる。水の安全性が世界的に問い直されている昨今、消費者団体が発した今回の警告をそのまま放置することなく、中長期的に国土の有する水資源について適切な管理を検討、実施していく必要性があるのではないだろうか。