ブリュッセル・ジャズ・オーケストラ、NYブルーノートに見参

1993年の設立以来、年々地歩を築き、現在では世界でも一流のビッグバンドの1つと言われるようになったブリュッセル・ジャズ・オーケストラ(BJO)。最近では、アカデミー賞5部門受賞の仏映画「アーティスト」の音楽を、ブリュッセルフィルハーモニー管弦楽団と共に担当したことで、一般にも広く知られるようになっており、その勢いで今春はジャズの殿堂、ニューヨークのブルーノート公演を果たした。4月7〜9日付のベルギー『ル・ソワール』紙は、公演を成功裡に終えたメンバーの思い、そしてここに至るまでの軌跡を綴っている(Brussels Jazz Orchestra en fanfare à New York. Le Soir, 2012.4.7-9, pp.32-33.)。
アメリカをはじめ世界の名立たるプレイヤーたちが演奏するブルーノートに登場したBJOは、常時満員の観客を前に、6日間連続で1時間20分の演奏を毎夜2セット行った。このジャズクラブで演奏したベルギー人としては、ハーモニカ奏者であるトゥーツ・シールマンス(1952年、30歳のときに米国に移住し、チャーリー・パーカーを皮切りにビル・エヴァンスなど多くのアーティストと共演)以来となる。さらに、以前から2枚のアルバムなどで共演している米国の作曲家兼ピアニスト、ケニー・ワーナーが全日程でゲスト参加し、会場をさらに盛り上げた。ケニーは終演後の楽屋で、「彼らは世界一のビッグバンドだよ」と絶賛。これには16名のメンバーたちも「アメリカ人は何でも大げさに言うからね」と肩をすくめつつ、和やかな表情を浮かべたという。
彼らの感慨は非常に深い。BJOの音楽監督でサックス担当のフランク・ヴァガネは、「15年前、自分はニューヨークに数か月滞在して、ここでシールマンスを聞いたんだ。この同じ場所で演奏することになるなんて、まるっきり思わなかったよ。夢みたいだ」と語り、座っていたソファの革を触りながら「ああ、スターたちがみんなここに座ったのか」とつぶやく。同じくサックスのカート・ファン・ヘルクは「ブルーノートにいるってことは、この場所の歴史に名を連ねたってことだね」と厳粛な面持ち。24歳のドラマー、トニ・ヴィタコロンナに至っては、また実感が今一つ湧かないらしく、それでも「このクラブの雰囲気には何かしらエネルギーがあるよ。音楽が壁から来るような感じがする」と感想を口にする。
マネージャーのクーン・マースがNY公演の準備を始めたのは6か月前。ケニーとの共演アルバムがブルーノートのレーベルであるハーフノート・レコーズから出されたことが縁となり、オファーがあったのだ。しかしマネージャーとしての作業は楽ではなかった。米国での労働許可証の入手、エアチケットやホテルの手配など、自分を含めて17人分だからいずれも手間のかかる仕事になる。そもそも懐が裕福というわけでもないので、できるだけ節約を試みた結果、正午ごろに飛行機でニューヨークに到着してから、その晩にすぐ公演開始というタイトなスケジュールともなった。また、楽器類は搭乗時に預けると破損するケースが多いため、トロンボーンバリトンサックス以外は全部手荷物にし、さらにパーカッション類とコントラバスは現地で借りるなどの苦労もあったという。
こうした苦労とメンバーの熱意が実り、聴衆は演奏を大いに楽しんだ様子だった。記者は何人かの観客にインタビューしたが、パリから娘に会いに来たついでに立ち寄ったというマルクは、「すごくプロフェッショナルだね。演奏はしっかりしていて効果的、感性も音楽性も優れているよ」と高く評価。コネチカット州から訪れたヒーサーとクレイグは、「普段はあまりジャズを聞かないんですが、この演奏は好きですね」と喜んでいた。自作のナンバーを共に演奏したケニー・ワーナーも、自分の曲はどことなく袋小路に入り込むような様子もあって奏者にとって難しいのだが、BJOはとてもよくやってくれるので、作曲家としても幸せを感じると改めて讃辞を送っている。
今夏にはアメリカのサックス奏者ジョー・ロヴァーノとの共演で、同氏の作品を収めたアルバムを発売し、併せてコンサートも開催するというBJO。ベルギーを代表する現代ジャズのアーティストとして、自分もCDでまたライブで、今後楽しんでいければと思う。