大手銀行は預金増目指しあの手この手

ギリシャなどの南欧諸国における国債危機に端を発するヨーロッパの銀行不安は、現在は一応小康状態にあると考えられるけれど、各銀行においてなお注意深い対応を必要とすることに変わりはない。そうした中で注目を集めているのが個人預金の動向。正直なところ、これまで十分に力を入れてきたとは言い難い預金の受け入れについて、4月4日付の経済紙『レゼコー』は最近のフランス大手商業銀行におけるトレンドを説明している(Les banques françaises partent à la reconquête des clients. Les Echos, 2012.4.4, p.25.)
フランスをはじめヨーロッパの銀行は、全般に預貸率(受入預金額に対する貸出金額の割合)が高い傾向にあり、これが流動性比率の相対的低下をもたらしている。バーゼル銀行監督委員会が定める最新の銀行規制体系によれば、流動性比率の確保は極めて重要な要件であり、その低下は信用リスクの上昇として評価されざるを得ない。ただ銀行が直接に貸出金を減らしてしまうと、融資先にとって貸し渋り貸し剥がしといったデメリットが生じてしまうので、貸出を維持しながら健全経営を標榜するには預金を増やすのが最適ということになる。
しかし、つい先頃までの銀行の経営戦略は、個人預金をより多く集めるという方向には進んでいなかった。レゼコー紙グループの経済産業研究部門子会社であるユーロスタッフの調査によれば、銀行は効率化を重視するあまり、預金者に対するサービスを定型化されたパッケージ商品に集中させ、また人手のかかる相談業務をできるだけ減らすよう努めてきており、この結果預金者と銀行とのつながりは確実に弱まったとされる。現在、フランス人の40%が異なる銀行に口座を持っており、これは預金者にとって「メインバンク」的な意識が薄らいでいる一つの証拠とも目されている。
以上の状況を背景に、各銀行はそれぞれの手法で具体的な取り組みに乗り出し始めている。クレディ・アグリコルは支店における預金者との関わりをより密接にする方策を検討するワーキング・チームを発足させ、またソシエテ・ジェネラル郵便貯金銀行では、より預金者志向を強めた金融商品の開発を強化した。最も動きがめざましい預金供託公庫の場合、小口融資の要望に対して原則24時間以内に返答する、顧客からの相談に対応する直通の連絡先を設置する、顧客からの連絡が留守番電話に入った場合は24時間以内に折り返すといった具体的な行動原則を打ち出して活発な展開を進めている。
もちろん、電子的媒体を通じたサービスも強化すべき主要な対象。インターネット、さらにスマートフォンの普及は、預金者と銀行との関係を根本的に変化させており、銀行側の技術革新は急務となっている。ただここで留意すべきなのは、それぞれの顧客が単一の媒体のみを使って銀行とコンタクトを取ることはさほど多くはない(むしろ少ない)と考えられること。ソシエテ・ジェネラルのマルチチャネル・サービス部長であるエリック・ソジュール氏は、「SNSソーシャルネットワーキング)を通じて(金融商品に関する)情報を得て、さらに各種商品を(インターネット等を使って)比較した上で、店舗で最終的な判断をするというお客様の行動パターンが顕著に見られます。弊行とお客様のコンタクトの79%は電子的手段でなされているのに、80%の方が『(支店における)相談員を廃止せず残してほしい』との希望を持っているのも、こうした行動パターンから理解されるところです」と事情を説明する。
電子サービスを充実させると共に対面サービスもないがしろにしないというのは人手も経費もかかることだが、それなくしては預金の確保という最終目的はなかなか達成されないようだ。経営安定のために、各行の地道、かつ迅速な(若干矛盾している感もあるが)努力が求められていると言えそうである。