国立管弦楽団、新たな音楽監督を迎えて

オーケストラは指揮者や音楽監督が交代することでその表情ががらっと変わることがある。色合いの異なるコンダクターの下で演奏活動を積むことにより、楽団そのものの深みが増すという要素もあって、だからこそ新しい指揮者の登場には、聴衆や愛好家から幅広く注目が集まるのだろう。4月23日付の『ル・ソワール』紙は、このほどベルギー国立管弦楽団(ONB)の音楽監督として着任したアンドレイ・ボレイコ氏をめぐる話題を伝えている(Boreyko, le musician complet. Le Soir, 2012.4.23, p.36.)。
ボレイコ氏は1957年、レニングラード(現・サンクトペテルブルク)生まれの55歳。1989年にアムステルダムで開催されたキリル・コンドラシン指揮者コンクールで入賞して注目され、イエナ・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督、ベルン交響楽団主任指揮者など、ドイツ語圏を中心としつつ活躍してきている。またアメリカやカナダでも多くのオーケストラと共演して経験豊富、NHK交響楽団や東京交響楽団でもタクトを振っており、中堅からそろそろベテランの域に達しつつあると言えるだろう。かたやONBは、ブリュッセルのコンサートでは平均1,350人の観客を動員し、また子どもや若者のための演奏イベントにも力を入れるなど、人気、実力、活動の3拍子揃った同国随一のオーケストラ。この両者の出会いが大方の注目を集めるのも理解できるところだ。
4月20日ブリュッセル芸術劇場ホールで開催された着任後初めてのコンサートで演奏されたのは、リムスキー−コルサコフの序曲「ロシアの復活祭」や、フランク(ベルギー出身)の交響詩「プシュケ」など。前者ではボレイコ氏の威厳に満ちた指揮ぶり、また綿密に研究された響きとリズムが際立っていた。一方後者については、この楽団が元来持っている豊かな素地を活かした味わい深いタクトさばきが評価されている。
ボレイコ氏にはベルギーという土地に対する格別の思い入れがあるらしい。隣国オランダでのコンクール入賞をきっかけにして、以後この国へも多々行き来があったらしく、さらに「ブリュッセルは本当にヨーロッパの中心だと思います。EU等の関係機関がこの街に数多く存在するということもありますが、それ以上にここは、二つの異なる文化の出会いの場になっているのです」とも語って、ONBで仕事をすることに対する特別な愛着を表明している。オーケストラ自体に対しても、「2005年に客演したとき、この楽団員はまだまだ伸びる人たちだとすぐわかりました」と述べており、今後に多くを期待しているようだ。
指揮者としての彼のモットーはちょっとユニーク。曰く「音楽を前にして消えてしまうのがよい」、なぜなら観客が指揮者ばかりを見ていたら演奏を聴くのがおろそかになる、それは作曲家の望むことではないだろうと。もちろん音楽はきちんと聴くわけだが、ボレイコ氏が実際に音楽監督としてどのようにONBを導き、また舞台でどのような音の魅力を披露してくれるのか、ぜひ楽しみにしていきたいと思う。