高級時計業界の好調ぶりを報告

スイスの時計産業については、当ブログでもこれまで何回か触れてきているところ。やはり当国にとって特徴的な業界だけに、注目すべき話題も多いのだ。しかもこの不況下、高級時計の分野は業績好調というのだから凄い話ではある(格差社会の反映かもしれないが)。4月17日付の『ル・タン』紙は、銀行の調査レポートをもとにして、2011年の業界事情を概観している(L’horlogerie suisse s’achemine vers 21 milliards de francs d’exportations. Le Temps, 2012.4.17, p.16.)。
チューリヒに本拠を置き、資産管理及び投資銀行業を営むフォントベル銀行が刊行した調査レポートによれば、世界の時計市場は総額約350億スイスフラン(約3兆1,500万円)。スイスはこの市場のなんと50%以上を占める大国であり、またその時計輸出額は、2011年には前年比で約20%増加していて、フォントベル銀行の予測では今年も引き続き8%程度増え、約210億スイスフラン(約1兆8,900億円)になると見られている。輸出に限らず生産額自体も拡大傾向にあり、昨今のユーロ経済、世界経済の趨勢を考えるとなんともうらやましい状況ではある。
ブランド毎に見た売り上げトップ5は、1位ロレックス(独立系)、2位カルティエ(リシュモン・グループ)、3位オメガ(スウォッチ・グループ)、4位パテック・フィリップ(独立系)、5位ロンジンスウォッチ・グループ)の順。ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシーグループ(LVMH)のタグ・ホイヤーが前年の5位だったが、ロンジンが順位を上げて逆転した形になっている。それ以外のランキング構成には変化なし。レポートが推計している(各ブランド自身は数値を明らかにしていないため)売上高は、ロレックスが約40億スイスフランで断トツ、カルティエが約22億で、これをオメガが猛追するといった感じのようだ。
一方、企業グループ毎に売上額を集計すると、1位スウォッチ・グループ、2位リシュモン・グループ、3位ロレックスとスイス勢が続き、4位にLVMHが入っている。5位は日本のシチズン、6位にアメリカのカジュアル時計市場で躍進中のフォッシル・グループが登場。ただ調査リポートは、小売価格が1,000スイスフラン(9万円)以上の時計の95%がスイス製であるとも分析しており、やはり高額商品におけるこの国のプレゼンスは圧倒的のようだ。
昨年のスイス時計業界は、スウォッチがこれまで実施してきたスイス国内の時計製造中小企業に対する機械式ムーブメント(駆動装置)の提供を大幅に削減すると表明し、さらにこれを競争当局が予想外に早く認可するという「事件」が起こったことで、規模の大きくない独立系メーカーには転機が強制されるといった年でもあった。上記のような各種データを見ても、どうやらこれまでも進行してきた有力ブランドや大規模グループをめぐる合従連衡が今後も加速しそうな気配が感じられる。産業としての競争力を維持するためには、効率性やいわゆる規模の経済がますます不可欠であるという潜在的な圧力もあるのかもしれない。